たとえば、長男は普段から素行が悪く、ギャンブルにはまり、あなたのお金を持ち出し遊び歩いているとします。一方で次男は、あなたの事業を日ごろから手伝い、あなたとしても事業は次男に継いでほしいと思っている。
次男にすべての財産を譲る旨の遺言を残そうと思っても、長男は遺留分を請求してきそうだ…。長男が憎いわけではないけれど、いかんせん素行が悪すぎる。
ちょっと極端すぎるケースですが、このような状況で長男に財産を相続させたくないと考えた場合、推定相続人の廃除という制度があります。この制度を利用すれば、被相続人が自らの意志で、推定相続人の相続権を剥奪することができます。
ここでは、推定相続人の廃除についてご説明していきます。
1.推定相続人の廃除とは
推定相続人の廃除とは、遺留分を有する推定相続人が
- 被相続人に対して虐待をした
- 被相続人に対して重大な侮辱を加えた
- その他著しい非行を行った
という状況がある場合に、被相続人が家庭裁判所に請求して、その者の相続権を剥奪する制度のことです。
民法892条(推定相続人の廃除)
遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者をいう。以下同じ。)が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。
遺留分は相続人の保護を図る大切な制度なのですが、上記のような者は保護する必要がありません。
そこで、このような者の相続権を剥奪し遺留分も認めないことにしたのです。冒頭の長男はこの請求が認められる可能性があるでしょう。
もっとも、相続権を剥奪するということは、相続人にとって大変重大な問題です。そのため、推定相続人に上記なような行為がなければ、推定相続人の廃除を請求することはできません。
つまり、単に推定相続人が気に入らない、推定相続人と仲が悪い、などといった理由では推定相続人の廃除は請求できないということです。
また、推定続人の廃除を請求することができる人は被相続人に限られます。このため、他の相続人が請求することはできません(後述する遺言による廃除の場合は、被相続人死亡後に行いますので、遺言執行者が請求することになります)。
推定相続人廃除の請求は、家庭裁判所に対して行います。廃除となる行為の程度は、最終的には家庭裁判所が判断をすることになります。
2.推定相続人廃除の対象者
推定相続人廃除の対象者は、遺留分を有する推定相続人です。具体的には次のとおりです。
- 配偶者
- 子(直系卑属)
- 親(直系尊属)
なお、兄弟姉妹は遺留分を有しないので、対象者には含まれません。兄弟姉妹に相続をさせたくない場合には、遺言を残しておく方法があります。
3.推定相続人廃除の方法
廃除には、次の2つの方法があります。
- 被相続人が生前に廃除の請求をする
- 遺言書での廃除
被相続人の生前には、被相続人自身が家庭裁判所に廃除の請求をする必要があります。裁判所の管轄は、被相続人の住所地の裁判所です。
また、被相続人が遺言によって、相続人の廃除を定めておくこともできます。なお、この方法をとった場合には、家庭裁判所に廃除の請求をするために必ず遺言執行者を選任しなければなりません。遺言執行者が、被相続人の死後に家庭裁判所へ廃除の請求することになります。
4.推定相続人廃除の取消し
一旦廃除をしてしまいましたが、息子が改心して「やっぱり許してやろう」という気持ちになる場合もありますよね。そのようなときは、家庭裁判所に廃除の取消しを請求できます。
民法894条(推定相続人の廃除の取消し)
1.被相続人は、いつでも、推定相続人の廃除の取消しを家庭裁判所に請求することができる。
2.(略)
5.推定相続人の廃除まとめ
以上見てきた推定相続人の廃除のポイントは次の5つとなります。
- 推定相続人の廃除とは、遺留分を有する推定相続人の相続権を剥奪する制度のこと
- 廃除事由は、推定相続人が被相続人に対して、①虐待をした、②重大な侮辱を加えた、③その他著しい非行を行った、といった3点に限られ、その行為の程度は家庭裁判所が判断をする
- 推定相続人廃除の方法は、①生前に被相続人が請求をする、②遺言で廃除の意思表示をする、の2通り
- 推定相続人の廃除は、家庭裁判所に請求をする必要がある
- 一旦廃除が確定した後でも、被相続人はいつでも廃除の取消しを請求することができる
できればこのような手続きを使うことなく円満に相続手続きを進めたいものです。しかし、状況によっては必要になってくる場合もあるでしょう。
推定相続人の廃除は、専門的な知識が必要な手続きとなります。ご自身で手続きを進める場合は、一つひとつの知識と手順をしっかり確認してから行うようにしてください。
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