「親の実家を相続したけど、使う予定がなくて空き家になっている…」というお話しを、よくお聞きします。
空き家率は年々増加傾向にあり、平成25年度の静岡県の調査では、県内の「空き家」は27万戸、「空き家率」は16.3%とする結果が出ています。
(参考:統計センター静岡)
- 「空き家を相続したけど管理ができない…」
- 「空き家の固定資産税の負担が重い…」
といった理由から、相続した空き家の所有権を放棄できないものか、とのご相談もお受けしますが、結論から言うと、空き家の所有権を放棄することはできません。
また、相続放棄をしても、空き家の管理義務を完全に免れることもできません。
ここでは、相続する資産に空き家があった場合の注意点と、その対応方法をご説明していきます。
目次
1.不動産(空き家)の所有権の放棄はできない
被相続人が(亡くなった人)が不動産の所有者だった場合、相続人は、その不動産の所有権を相続します。所有権とは、その物を、使用・収益・処分する権利です。
たとえば、不動産を賃貸したり、売却したりする行為というのは、所有権を持っているから可能な行為、ということになります。
そして、この不動産の所有権は、放棄をすることができません。つまり、「私にとってこの不動産は要らないから、所有者を辞めます」ということは、法律上認められていないということです。
不動産を手放したい場合は、①売却する、②自治体に寄付をする、のどちらかを選ぶことになります。
もっとも、②の自治体への寄付は、どんな物件でも無条件に寄付できるわけではなく、道路や地域の公園など、その自治体にとって役に立つものでなければ、寄付を受け付けてくれません。
2.相続放棄をしても、空き家の管理義務は続く
「相続をしても所有権の放棄はできないのなら、いっそのこと相続を放棄してしまおう」、と考える人もいるでしょう。
たしかに、相続放棄をすれば、所有者としての地位を相続することはなくなります。しかし、所有権とは別に、空き家の管理義務というものは残ります。
これは、法律で、相続の放棄をした人は、次の相続人が相続財産を管理できるようになるまで、その財産の管理を続けなければならない、と規定されているからです。
民法940条(相続を放棄した者による管理)
相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。
(2項略)
このように規定されている理由は、誰かが空き家を管理しなければ郵便物が溜まり続けてしまうし、建物が荒廃して近所の人に迷惑をかけてしまうおそれがあるためです。
したがって、相続放棄後をしても空き家とは完全に無関係とはならず、管理を続けていかなければならない、ということになります。
また、相続放棄は、空き家以外の財産(たとえば預貯金)などもすべて放棄しなければならない点に注意が必要です。
3.空き家を放置すると、どんな問題が起こるのか
空家の管理者には、次のような管理上の責務が課せられています。
(空家等の所有者等の責務)
空家等対策の推進に関する特別措置法第三条空家等の所有者又は管理者(以下「所有者等」という。)は、周辺の生活環境に悪影響を及ぼさないよう、空家等の適切な管理に努めるものとする。
そして、空き家を適切に管理していないと、次のような問題が起こり得ます。
- 建物倒壊
- 火災による延焼
- 不法侵入、犯罪への利用
- ゴミの不法投棄
- 悪臭、虫害、動物の侵入
このような問題が起こって近隣住民に損害を与えてしまった場合、損害賠償義務を負うのは、その不動産の所有者となります。
民法第717条(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)
1.土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。
2.前項の規定は、竹木の栽植又は支持に瑕疵がある場合について準用する。
3.前二項の場合において、損害の原因について他にその責任を負う者があるときは、占有者又は所有者は、その者に対して求償権を行使することができる。
本来、一次的に責任を負うべきはその不動産の占有者(住んでいる人)なのですが、空き家には占有者がいないため、所有者がその責任を負います。
その他に、空き家所有者には、様々な負担がかかります。
- 固定資産税の負担
- 空き家管理費などの維持費の負担
- 建物解体費用の負担 など
4.対応策として
空き家への対応策としては、
- 空き家バンクへの登録
- 空き家の解体
- 空き家買い取り業者へ売却
といったものが考えられます。
4−1.空き家バンクへの登録
空き家バンクとは、自治体へ空き家情報を集約させることで、空家所有者と空家を利用したい人との間のマッチングをする仕組みです。
運用の詳細は各自治体によって異なりますので、気になる人は各自治体へ問い合わせをしてみましょう。
4−2.空き家の解体
解体費用がかかってしまいますが、空き家を解体してしまうのも一つの方法です。更地にしてしまえば管理の手間はほとんどかかりませんし、空き家付き土地よりも、高く、早く売却できることがあります。
4−3.空き家買取業者への売却
空き家付き土地のまま物件を売りに出しても、買い手が付くまでに数年かかるケースも珍しくありません。買い手が付くまでに時間がかかればかかるほど、管理の手間はかかり、前述した、空家所有者のリスクを引き受けることになります。
このような状況を回避する方法として、空き家専門の買取業者に売却する方法があります。
メリットは、
- 前述したリスクを引き受ける必要がなく早く売れること
- 解体費用を業者側で手配してもらえることが多いので、空き家付きのまま売買契約だけをすれば取引が終わること
などがあげられます。
一方でデメリットとしては、一般に買い手を募るよりも、売却価格は安くなる傾向にあります。
ご自身での管理を負担に感じているようなら、このような業者へ声をかけてみることをおすすめします。
空き家買取専科
5.まとめ
- 相続した空き家所有権の放棄はできない
- 相続放棄をしても、空家の管理義務は完全には消滅しない
- 空き家を放置すると、損害賠償請求などを受ける可能性がある
- 空き家の対策方法としては、
- 空き家バンクへの登録
- 空き家の解体
- 空き家買取業者への売却 などがある
ここでは、相続した空き家の問題について見てきましたが、いかがだったでしょうか。
近年、社会問題とまでなっている空き家問題を簡単に解決する方法はありません。しかし、この問題を解決しようとしている自治体や業者に相談をすれば、必ずあなたの力になってくれるはずです。
ここでの記事が、あなたの参考になれば幸いです。