相続放棄をするためには、「意思能力」が必要です。したがって、認知症などで自身の意志を表明できない人は、単独で相続放棄をすることができません。
このような場合は、その人のために成年後見人を選任する必要があります。
ここでは、認知症の人が相続放棄をする方法について、ご説明していきます。
目次
1.被相続人が借金をしていた場合には
「相続をする」とは、被相続人(亡くなった人)のすべての財産を引き継ぐことです。この「すべての財産」には、マイナスの財産である借金も含まれます。単純に相続の承認をしてしまうと、相続した借金は相続人自身の借金となり、引き続き支払っていかなければなりません。
このようなことを防ぐために、相続人は相続を放棄することができます。これが「相続放棄」と呼ばれる行為のことです。
民法939条(相続放棄の効力)
相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。
相続放棄をするためには「意思能力」が必要です。意思能力とは、単純に「私の意志で相続放棄をしますよ」と表明できる能力のことです。
したがって、自分の意志を表明することが難しい認知症の人は、単独で相続放棄をすることができません。このような場合は、その認知症の人のために成年後見人を選任する必要があります。
2.成年後見人を選任して相続放棄をする
成年後見制度とは、認知症や知的障害・精神障害などによって、判断能力が不十分な人を保護するために設けられた制度です。
判断能力が不十分な人は、各種の契約や相続放棄などの法律行為を自分で行うことが困難となります。こうした方々をサポートするために、親族らの請求によって家庭裁判所は成年後見人を選任します。
民法第7条(後見開始の審判)
精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、後見開始の審判をすることができる。
成年後見人は、本人に代わって様々な契約をすることや本人の財産を管理する権限を持ちます。この権限により、成年後見人は本人の代わりに相続放棄をすることができるのです。
なお、成年後見人を選任してする相続放棄は、次の2点に注意してください。
2−1.本人のためにする相続放棄でなくてはならない
成年後見制度とは、本人の権利を守るための制度です。したがって、本人に不利益となるような相続放棄をすることはできません。
たとえば、特定の相続人に遺産を集中させるためにする相続放棄などは認められません。
2−2.相続放棄をした後も後見人による財産管理は継続される
成年後見制度は、判断能力の低下した人の法律行為全般を支援する制度です。したがって、相続放棄をした後も、後見人による財産管理は継続されます。
3.相続放棄の期限は、成年後見人が相続開始を知ったときから起算される
相続放棄をするためには、自己のために相続の開始があったことを知った時から「3ヶ月」以内に、家庭裁判所に申述をしなければなりません。
民法915条(相続の承認または放棄をすべき期間)
1.相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。
(2項略)
この点、認知症の人の相続放棄の期限は、「選任された成年後見人が相続開始を知ったときから3ヶ月以内」となります。
なお、この規定は、成年後見人になった人が以前から借金の存在を知っていたとしても、成年後見人に選任された後から3ヶ月を数えてよい、とされています。なぜなら、後見人になる前は、たとえ借金の存在を知っていたとしても相続放棄をする権限がないからです。
4.まとめ
ここでは、認知症の人が相続放棄をする方法をみてきましたが、いかがだったでしょうか。
被相続人に借金がある場合は、相続人が思わぬ損害を被る可能性がありますので、相続放棄に関する規定はきちんと確認しておいたほうがよいでしょう。
この記事があなたの参考になれば幸いです。
★認知症の人が相続放棄をする方法