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【司法書士が解説】成年後見制度の費用はいくら?申立てから後見人報酬まで徹底ガイド

計算機とノート

「認知症の親の預金が、本人でないと引き出せない…」
「一人暮らしの親が悪徳商法に騙されないか心配…」
「障害のある子どもの将来のために、財産管理の仕組みを準備しておきたい」

このようなお悩みや不安を抱え、成年後見制度の利用を検討される方が多くいらっしゃいます。成年後見制度は、判断能力が不十分になった方の財産を守り、その方らしい生活を支えるための大切な制度です。

しかし、制度利用を考える際に、多くの方が一番気になるのが「費用は一体いくらかかるのか」ということではないでしょうか。

費用に関する情報が曖昧なままでは、なかなか一歩を踏み出せないものです。逆に、費用の全体像や内訳、そして負担を軽減できる公的な制度についてきちんと知ることができれば、安心して手続きを進めることができます。

この記事では、成年後見制度に精通した司法書士が、制度利用にかかる費用について、「いつ」「誰が」「何を」「いくら」支払うのかを、どこよりも分かりやすく徹底的に解説します。

この記事を最後までお読みいただければ、成年後見制度の費用に関する漠然とした不安が解消され、ご自身やご家族にとって最適な選択をするための一助となるはずです。

1. 成年後見制度の費用は2つのタイミングで発生する

成年後見制度にかかる費用は、大きく分けて以下の2つのタイミングで発生します。

  1. 申立て時: 家庭裁判所に成年後見の開始を申し立てる際にかかる費用
  2. 後見開始後: 実際に後見が始まった後、継続的にかかる費用

そして、これらの費用は「誰が負担するのか」も異なります。

費用の発生タイミング主な費用の種類負担する人
① 申立て時実費(書類取得費、印紙代、切手代、診断書代など)原則:申立人 (後に本人の財産から精算可能)
専門家への申立て依頼報酬申立人 (本人負担にはできない)
② 後見開始後後見人・後見監督人への報酬本人 (本人の財産から支払われる)

まずはこの全体像を頭に入れておくと、この後の詳細な説明が理解しやすくなります。それでは、それぞれの費用について詳しく見ていきましょう。

2. 【申立て時にかかる費用】内訳と相場を解説

成年後見制度を利用するためには、まず家庭裁判所に「後見開始の審判」を申し立てる必要があります。この手続きの際に、以下の費用がかかります。

2-1. ご自身で申立てをする場合にかかる「実費」

専門家に依頼せず、ご家族などがご自身で申立て手続きを行う場合でも、必ず必要になるのが「実費」です。

① 収入印紙:800円

申立書に貼付する印紙代です。これは全国一律で800円と決まっています。 また、後見人に「代理権」や「同意権」を与える申立てを同時に行う場合は、それぞれ追加で800円ずつの収入印紙が必要になることがあります。

② 登記印紙:2,600円

後見人に選任された内容を法務局で登記するための費用です。これも全国一律で2,600円です。申立て時に収入印紙と合わせて裁判所に納めます。

③ 連絡用の郵便切手:約3,000円~5,000円

裁判所が関係者に書類を送付するために使用する郵便切手です。申立てをする家庭裁判所によって金額や組み合わせが細かく決められています。申立て先の裁判所のウェブサイトで確認するか、事前に電話で問い合わせましょう。おおむね3,000円から5,000円程度が目安となります。

④ 戸籍謄本・住民票などの各種証明書:合計 約1,500円~3,000円

申立ての際に、申立人や後見を受けるご本人(被後見人)、後見人の候補者などの関係を証明するために、以下の書類が必要になります。

  • ご本人の戸籍謄本、住民票
  • 申立人の戸籍謄本
  • 後見人候補者の住民票
  • ご本人の「後見登記されていないことの証明書」

「後見登記されていないことの証明書」とは、その人が現在、後見制度を利用していないことを証明する書類で、全国の法務局・地方法務局の本局の戸籍課窓口、または東京法務局への郵送で取得できます。 取得する書類の種類や通数によって費用は変動しますが、合計で1,500円~3,000円程度を見ておくと良いでしょう。

⑤ 医師の診断書:約5,000円~1万円

ご本人の判断能力の程度を医学的に証明するために、医師の診断書が必須となります。かかりつけの主治医に作成を依頼するのが一般的です。診断書の書式は裁判所のウェブサイトからダウンロードできます。 費用は病院や医師によって異なりますが、5,000円~1万円程度が目安です。

⑥【必要な場合のみ】鑑定費用:5万円~10万円

診断書だけでは判断能力の程度が明らかでない場合など、裁判所が必要と判断した際に「精神鑑定」が行われます。この鑑定を行うための費用です。 鑑定は必ず行われるわけではなく、診断書の内容やその他の資料から明らかに後見相当(判断能力が常に欠けている状態)であると判断できる場合など、多くのケースで省略されています。しかし、鑑定が必要になった場合は、5万円~10万円、場合によってはそれ以上の費用がかかることもあります。

参考記事:自分で成年後見の申立てをした場合の手続きの流れ

実費は誰が払う?原則は申立人だが、本人の財産から精算可能
これらの実費は、手続き上、まずは申立人が立て替えて支払うのが原則です。しかし、これらの費用は本来、ご本人のために使われるものです。 そのため、申立書の「手続費用の負担について」という項目で「本人負担を求める」という欄にチェックを入れておけば、後見が開始された後に、立て替えた分をご本人の財産から精算することが認められています。領収書は必ず保管しておきましょう。

2-2. 専門家に申立てを依頼する場合の「報酬」

成年後見の申立ては、必要書類が多く手続きも複雑です。平日の日中に裁判所や役所へ何度も足を運ぶ必要もあり、ご自身で行うのが難しい場合も少なくありません。 そうした場合、手続き全体を司法書士や弁護士などの専門家に依頼することができます。

報酬の目安:10万円~20万円程度

この報酬は、依頼する専門家や事案の複雑さによって異なりますが、一般的には10万円~20万円程度が相場です。

【重要】専門家への依頼報酬は「申立人」の負担

ここで注意が必要なのは、申立てを依頼した専門家への報酬は、申立人の負担となる点です。先ほどの実費とは異なり、後から本人の財産で精算することは原則として認められていません。これは、あくまで「申立て」という行為を依頼したことに対する費用だからです。

専門家に依頼すれば、時間や手間を大幅に削減でき、スムーズかつ確実に手続きを進められるという大きなメリットがあります。依頼を検討する際は、事前に複数の事務所に見積もりを依頼し、サービス内容と費用に納得した上で契約することが大切です。

3. 【後見開始後にかかる費用】専門職後見人への報酬

無事に後見が開始されると、選任された後見人がご本人の財産管理や身上保護の仕事(後見事務)を開始します。この後見事務に対する報酬が、後見開始後に継続的に発生する主な費用です。

3-1. 誰が後見人になるかで報酬は変わる

  • 親族が後見人になる場合: 原則として無報酬です。ただし、家庭裁判所に申し立てて許可を得れば、ご本人の財産から報酬を受け取ることも可能です。
  • 司法書士・弁護士などの専門職が後見人になる場合: 報酬が発生します。この報酬は、ご本人の財産の中から支払われます。

3-2. 専門職後見人の報酬額は誰がどう決める?

「専門家が後見人になると、高額な報酬を取られるのでは?」と心配されるかもしれませんが、そうではありません。

報酬額は、後見人が勝手に決めるのではなく、家庭裁判所が決定します。

後見人は、1年間行った後見事務の内容を家庭裁判所に報告する際に、「報酬付与の申立て」という手続きを行います。裁判所は、その後見事務の内容と、ご本人の財産状況などを総合的に考慮して、妥当な報酬額を決定するのです。

① 基本報酬の目安

裁判所が公表している明確な基準はありませんが、一般的に、管理する財産額に応じて以下のような目安とされています。

ご本人の管理財産額基本報酬の目安(月額)
1,000万円以下2万円
1,000万円を超え5,000万円以下3万円~4万円
5,000万円を超える場合5万円~6万円

※この金額はあくまで目安であり、事案の難易度などによって変動します。

② 付加報酬とは?

通常の財産管理(預貯金の入出金管理や各種支払いなど)に加えて、特別な業務を行った場合には、上記の基本報酬に上乗せして「付加報酬」が認められることがあります。

【付加報酬の対象となる業務の例】

  • ご本人のために、不動産(自宅など)を売却する手続きを行った。
  • ご本人が相続人となった遺産分割協議や調停を行った。
  • ご本人の代理人として、訴訟手続きを行った。
  • 多額の保険金を受け取る手続きを行った。

付加報酬の額は、その行為の難易度や得られた利益などを考慮して、裁判所が個別に判断します。

3-3. 費用に関するよくある誤解と安心のポイント

後見人の報酬に関しては、いくつかの誤解から制度利用をためらってしまう方もいらっしゃいます。ここで、よくある疑問にお答えします。

Q1. 本人の財産が少ないと、後見制度は利用できない?
A1. いいえ、そんなことはありません。 裁判所は、ご本人の財産状況に応じて報酬額を決定します。ご本人の生活費などを確保した上で、支払い可能な範囲で報酬額が決められます。財産が非常に少なく、報酬を支払う余裕がない場合には、報酬額が低額になったり、ゼロと判断されたりすることもあります。

Q2. 報酬を支払うことで、本人の財産が底をついてしまうことは?
A2. あり得ません。 裁判所は、ご本人の生活が成り立たなくなるような報酬額を決定することはありません。後見制度は本人の財産と生活を守るための制度であり、その目的が本末転倒になることはありませんのでご安心ください。

Q3. 本人の財産で報酬を支払えない場合、家族や親族に請求が来る?
A3. いいえ、絶対にありません。 後見人の報酬は、あくまでご本人の財産から支払われるものです。ご本人の財産から支払えないからといって、その不足分が申立人や他のご家族に請求されることは一切ありません。

4. 費用負担を軽くする「公的助成制度」を知っておこう

「本人の財産は少ないけれど、身近に後見人になってくれる親族もいない…」 このような場合にぜひ知っておいていただきたいのが、「成年後見制度利用支援事業」です。

これは、資産や所得の少ない方でも成年後見制度を利用できるよう、市区町村が申立て費用や後見人報酬の一部または全部を助成してくれる制度です。

  • 対象となる方(例):
    • 生活保護を受給している方
    • 住民税の非課税世帯に属する方
    • その他、市町村が定める収入・資産要件を満たす方
  • 助成の内容:
    • 申立てにかかる実費(印紙代、切手代、診断書代、鑑定費用など)
    • 後見人・後見監督人への報酬

助成の要件や金額、申請手続きは各市区町村によって異なります。

ご自身の状況が助成の対象になるか分からない場合は、お住まいの市区町村の高齢者福祉担当課や障害福祉担当課、または地域包括支援センターに問い合わせてみましょう。

この助成制度は、基本的には、専門職の後見人のための制度です。前述したとおり、後見人の報酬額は、裁判所が本人の財産の多寡に応じて決定をします。本人に報酬を支払えるような財産がなければ、報酬額が0(ゼロ)になることもありえます。
このような場合に、専門職の後見人は、市町村等の助成制度を利用して、そちらから報酬をいただくようにしています。

5. 【参考】法定後見と任意後見の費用の違い

ここまで説明してきたのは、主に「法定後見」の費用です。成年後見制度には、ご本人が元気なうちに将来に備えて後見人や契約内容を自分で決めておく「任意後見」という制度もあります。両者の費用の違いも簡単に見ておきましょう。

項目法定後見任意後見
契約・申立て後見開始の審判申立て
(実費+専門家報酬)
①任意後見契約の締結
(公正証書作成費用:数万円)
②任意後見監督人選任の申立て
(実費:法定後見とほぼ同額)
後見人報酬裁判所が決定契約時に当事者間で自由に決定
監督人報酬裁判所が決定(選任された場合)裁判所が決定(必ず選任される

任意後見では、後見人への報酬を契約で自由に決められるのが大きな特徴です。例えば、「月々〇万円」と固定額にすることも、「財産管理は無報酬で、身上保護に関する実費のみ支払う」といった柔軟な設計も可能です。

ただし、任意後見では家庭裁判所が必ず「任意後見監督人」を選任し、その監督人への報酬(財産額に応じて月額1~3万円程度)が別途発生します。

将来に備えたい方は、任意後見も選択肢の一つとして検討してみると良いでしょう。

6. まとめ:費用への理解は、安心して制度を利用するための第一歩

今回は、成年後見制度にかかる費用について、多角的に詳しく解説しました。最後に、重要なポイントを振り返りましょう。

  • 費用が発生するタイミングは「申立て時」と「後見開始後」の2つ。
  • 申立て時の実費は、後に本人の財産から精算できる。
  • 申立てを専門家に依頼した報酬は、申立人の負担となる。
  • 専門職後見人への報酬は、本人の財産状況に応じて裁判所が決定する。
  • 報酬の支払いで本人の生活が破綻したり、家族に請求がいくことは絶対にない。
  • 資力が乏しい方向けに、市区町村による公的な助成制度がある。

成年後見制度の利用には、確かに費用がかかります。しかしそれは、判断能力が不十分になったご本人の大切な財産を悪意ある第三者から守り、望む暮らしを継続していくための、いわば「安心料」や「必要経費」と捉えることもできます。

費用面だけで制度利用を諦めてしまう前に、まずは正確な情報を知ることが何よりも大切です。この記事が、あなたが抱える不安を少しでも和らげ、次の一歩を踏み出すための助けとなれば幸いです。

もし、ご自身のケースでは具体的にどれくらいの費用がかかるのか、どのような手続きが必要なのか、さらに詳しく知りたい場合は、どうぞお気軽に当事務所までご相談ください。お一人おひとりの状況に寄り添い、最適な解決策をご提案いたします。

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