「遺産相続おまかせパック」の詳細はこちら

【完全ガイド】相続人以外に財産を遺す「遺贈」とは?司法書士が書き方・税金・注意点を徹底解説

テーブルと観葉植物

「長年連れ添った内縁の妻に、安心して暮らせるだけの財産を遺したい」
「法定相続人ではないが、我が子同然に可愛がってきた甥に事業を継いでほしい」
「人生の最後に、お世話になった施設や応援している団体に寄付をしたい」

近年、ライフスタイルの多様化や価値観の変化に伴い、法律で定められた相続人(法定相続人)以外の大切な人や団体にご自身の財産を譲りたいと考える方が増えています。

結論から申し上げますと、その想いは「遺言書」を作成することで実現できます。

しかし、相続人以外の方へ財産を遺す場合、法定相続人への相続とは異なるルールや注意点が数多く存在します。知識が不十分なまま進めてしまうと、かえって残された方々の間でトラブルを招いたり、想定外の税負担を強いてしまったりする可能性も否定できません。

そこで本記事では、相続・遺言の専門家である司法書士が、相続人以外の方へ財産を譲る「遺贈(いぞう)」という制度について、網羅的かつ分かりやすく解説します。

この記事を最後までお読みいただければ、遺贈の基本的な知識から具体的な遺言書の書き方、税金の問題、トラブルを未然に防ぐための対策まで、すべてをご理解いただけます。あなたの最後の想いを、最も確実な形で実現するための一助となれば幸いです。

1 なぜ「相続人以外」へ?多様化する財産の遺し方

遺言によって財産を誰に譲るかは、遺言者の自由な意思に委ねられています。これを「遺言自由の原則」といいます。この原則があるからこそ、法定相続人に限定されず、ご自身の財産を本当に渡したいと願う相手に譲ることが可能になるのです。

実際に、以下のような理由で相続人以外の方へ財産を遺すことを選択される方が増えています。

ケース1:内縁の妻(事実婚のパートナー)の生活を守るため

長年連れ添い、夫婦同然の生活を送ってきた内縁の配偶者(事実婚のパートナー)。しかし、法律上の婚姻関係にないため、内縁の配偶者には相続権が一切認められていません。

たとえ何十年と生活を共にし、財産の形成に貢献してきたとしても、遺言書がなければ1円も財産を受け取ることができないのです。遺されたパートナーが住む家を失ったり、生活に困窮したりする事態を防ぐため、遺言書で財産を遺贈することは極めて重要です。

ケース2:献身的な介護をしてくれた子の配偶者(お嫁さん・お婿さん)へ

ご自身の介護を、実の子以上に献身的に支えてくれた子の配偶者(お嫁さんやお婿さん)。感謝の気持ちとして財産を分けてあげたいと思うのは自然な感情です。

しかし、子の配偶者も法定相続人ではないため、原則として相続権はありません。もちろん、ご自身の子(配偶者の夫または妻)が相続した財産から間接的に感謝を示すことは可能ですが、あなたの「この人に直接渡したい」という想いを形にするには、遺言書で名指しで遺贈する必要があります。

ケース3:お世話になった恩人・友人・施設へ

「闘病生活を支えてくれた友人」「親身に相談に乗ってくれたご近所さん」「晩年を過ごした介護施設」など、血縁関係はないものの、感謝を伝えたい相手がいる方もいらっしゃるでしょう。このような個人や法人に対しても、遺贈によって感謝の気持ちを財産という形で示すことができます。

ケース4:社会貢献・NPO法人・自治体への寄付

ご自身の財産を社会のために役立ててほしいと願い、NPO法人や公益法人、国や地方自治体へ寄付(遺贈)することも可能です。特定の研究分野の発展や、恵まれない子どもたちの支援、環境保護活動など、ご自身が関心のある分野へ貢献する一つの方法となります。

このように、法定相続という枠組みだけでは叶えられない多様な想いを実現する強力な手段が「遺贈」なのです。

2 「遺贈」の基本を学ぶ|2つの種類と「相続」との違い

相続人以外の人へ財産を遺すことを法律用語で「遺贈」と呼びます。この遺贈には、大きく分けて2つの種類があります。どちらを選択するかによって、受遺者(遺贈により財産を受け取る人)の権利や義務が大きく異なるため、慎重に検討する必要があります。

2-1. 特定遺贈(とくていいぞう)

「この不動産をAさんに」「B銀行の預金500万円をCさんに」というように、特定の財産を指定して遺贈する方法です。

メリット

  • どの財産を誰に渡すかが明確で、遺言の内容が分かりやすい。
  • 受遺者は、指定された財産(プラスの財産)のみを受け取る。遺言者の借金などのマイナスの財産を引き継ぐ義務はない。
  • 受遺者は、遺贈を承認するか放棄するかを自由に決めることができる(他の相続人の同意は不要)。

デメリット

  • 遺言書作成後にその財産が売却されたり、滅失したりした場合、その遺贈は原則として無効になる。
  • 預貯金の場合、指定した金額が実際の残高を上回っていた場合、不足分を他の財産から支払う義務はないため、受遺者が期待した額を受け取れない可能性がある。

2-2. 包括遺贈(ほうかついぞう)

「全財産の3分の1をDさんに」というように、財産の割合を指定して遺贈する方法です。

メリット

  • 遺言書作成後の財産内容の変動に柔軟に対応できる。
  • 遺言者が所有する財産の全体像を詳細に把握していなくても、割合で指定できる。

デメリット

  • 最大の注意点として、プラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も指定された割合で引き継ぐことになる。
  • 包括受遺者は、法律上、相続人と同一の権利義務を持つとされています。そのため、他の相続人と同様に遺産分割協議に参加する必要があり、手続きが複雑になる場合がある。
  • 遺贈を放棄する場合は、相続放棄と同様に、遺贈があったことを知った時から3ヶ月以内に家庭裁判所で手続きをする必要がある。

2-3.「遺贈」と「相続」の違いまとめ

項目遺贈相続
対象者相続人、相続人以外、法人など誰にでも可能法定相続人に限られる
財産の承継遺言で指定された財産のみ(特定遺贈)
指定された割合(包括遺贈)
すべての権利義務を包括的に承継
マイナス財産の承継包括遺贈の場合のみ承継原則としてすべて承継
不動産取得税課税される課税されない
登録免許税(不動産)固定資産税評価額の2.0%固定資産税評価額の0.4%
遺贈の放棄いつでも可能(特定遺贈)
3ヶ月以内に家裁へ申述(包括遺贈)
3ヶ月以内に家裁へ申述

3 遺言書の書き方をマスターする【財産別・文例付き】

遺贈を確実に行うためには、法的に有効な遺言書を作成することが絶対条件です。遺言の方式には「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類がありますが、どの方式でも遺贈は可能です。

ここでは、最も基本的な記載事項と、財産別の具体的な文例をご紹介します。

参考記事:遺言には3つの種類があります

3-1.基本的な記載のポイント

最も重要なポイントは、「①誰に」「②どの財産を」遺贈するのか、第三者が見ても一義的に特定できるよう、正確かつ詳細に記載することです。

(注1)誰に(受遺者の特定)

氏名だけでは同姓同名の人物と混同される恐れがあります。受遺者を正確に特定するために、以下の情報を記載しましょう。

  • 氏名(フルネーム)
  • 生年月日
  • 住所
  • 遺言者との続柄(例:遺言者の甥、内縁の妻など)

(注2)遺贈の文言

相手が相続人ではないため、「相続させる」ではなく「遺贈する」という文言を使用します。

(注3)どの財産を(財産の特定)

誰が見てもどの財産のことか分かるように、客観的な情報で特定します。

3-2.財産別の文例

3-1. 不動産(土地・建物)を遺贈する場合

不動産は、登記事項証明書(登記簿謄本)の記載通りに一字一句正確に書き写すことが鉄則です。

第◯条 遺言者は、遺言者の所有する下記不動産を、遺言者の長男の妻である「甲野 花子」(昭和◯年◯月◯日生、住所:東京都世田谷区◯◯一丁目◯番◯号)に遺贈する。



【土地】
 所  在  静岡市葵区◯◯
 地  番  ◯番◯
 地  目  宅地
 地  積  ◯◯.◯◯平方メートル

【建物】
 所  在  静岡市葵区◯◯
 家屋番号  ◯番◯
 種  類  居宅
 構  造  木造スレート葺2階建
 床 面 積  1階 ◯◯.◯◯平方メートル
       2階 ◯◯.◯◯平方メートル

3-2. 預貯金を遺贈する場合

金融機関名、支店名、預金種別、口座番号で特定します。残高は日々変動するため、金額を明記する方法と、「下記口座の預金全額」と記載する方法があります。

第◯条 遺言者は、遺言者の有する下記預金債権を、内縁の妻である「乙山 幸子」(昭和◯年◯月◯日生、住所:神奈川県横浜市港北区◯◯一丁目◯番◯号)に遺贈する。



1.銀行名  ◯◯銀行 ◯◯支店
  種 別  普通預金
  口座番号 1234567

2.銀行名  ゆうちょ銀行
  記号番号 10123-45678901

3-3. 株式・有価証券を遺贈する場合

証券会社名、支店名、口座番号、そして株式の場合は銘柄と株数を正確に記載します。

第◯条 遺言者は、遺言者が◯◯証券株式会社◯◯支店に有する下記株式を、「山田 太郎」(昭和◯年◯月◯日生、住所:埼玉県さいたま市中央区◯◯一丁目◯番◯号)に遺贈する。



1.銘柄  トヨタ自動車株式会社(銘柄コード 7203)
  株数  1000株

※注意 上記はあくまで文例です。遺言書は、各方式(自筆証書、公正証書)で定められた厳格なルールに従って作成しなければ無効となります。

参考記事:【改正法対応】自筆証書遺言を書くために必要な全知識

参考記事:【保存版】公正証書遺言の作成方法・費用・必要書類を詳細に解説

4 絶対に知るべき遺贈の注意点とトラブル回避策

相続人以外への遺贈は、法定相続人たちの感情を害したり、予期せぬトラブルを招いたりする可能性があります。ここでは、事前に知っておくべき重要な注意点と、その対策を解説します。

4-1. 「遺留分」への配慮を忘れない

法定相続人には、遺言によっても奪うことのできない、最低限の遺産の取り分が法律で保障されています。これを「遺留分(いりゅうぶん)」といいます。

遺留分が認められているのは、兄弟姉妹を除く法定相続人(配偶者、子、直系尊属)です。

例えば、「全財産を内縁の妻に遺贈する」という遺言書を作成した場合、法定相続人である子や親は、自身の遺留分が侵害されているとして、財産を受け取った内縁の妻に対し「遺留分侵害額請求」を行い、侵害された分に相当する金銭の支払いを求めることができます。

これが深刻なトラブルに発展するケースは少なくありません。遺贈を考える際は、法定相続人の遺留分を侵害しない範囲で財産を渡すか、あるいは、なぜそのような遺言にしたのかを「付言事項」として書き記し、相続人たちの理解を求めるなどの配慮が重要です。

4-2. 税金の負担が重くなる可能性がある

前述した比較表でも触れましたが、相続人以外への遺贈は、相続の場合と比べて税金面で不利になる点があります。

① 相続税の2割加算

財産を受け取った人が、遺言者の配偶者および一親等の血族(子や親)以外である場合、その人が納付すべき相続税額が2割増しになります。内縁の妻、子の配偶者、甥・姪、友人などはすべてこの対象です。

② 不動産取得税の課税

相続により不動産を取得した場合、不動産取得税はかかりません。しかし、遺贈(特定遺贈・包括遺贈を問わず)によって不動産を取得した場合は、不動産取得税が課税されます。

③ 登録免許税の税率

不動産の名義変更(所有権移転登記)の際に納める登録免許税も、税率が異なります。

  • 相続の場合:固定資産税評価額 × 0.4%
  • 遺贈の場合:固定資産税評価額 × 2.0%

評価額5,000万円の不動産であれば、相続なら20万円、遺贈なら100万円となり、その差は歴然です。受遺者の税負担がどの程度になるかを事前にシミュレーションし、場合によっては納税資金として現金も合わせて遺贈するなどの配慮が求められます。

4-3. 受遺者が先に亡くなった場合の対策

遺贈は、遺言者が亡くなった時に受遺者が生存していなければ、その効力を生じません。もし、財産を渡したいと願っていた相手が、ご自身より先に亡くなってしまった場合、その人への遺贈に関する記載は無効となります。

その場合、その財産は他の相続人による遺産分割の対象となります。もし、「Aさんが亡くなっていた場合は、その子のBさんに遺贈したい」という希望があるならば、その旨を遺言書に明記しておく必要があります。これを「予備的遺言(よびてきいごん)」といいます。

【予備的遺言の文例】

第◯条 遺言者は、◯◯をAに遺贈する。

2 本遺言の効力発生時にAが死亡しているときは、◯◯をAの子であるB(生年月日、住所)に遺贈する。

4-4. 遺言執行者を指定しておく

遺言執行者とは、その名の通り、遺言の内容を実現するために必要な手続き(預金の解約や不動産の名義変更など)を行う権限を持つ人のことです。

特に、相続人以外への遺贈がある場合、遺言執行者の指定は必須と言っても過言ではありません。なぜなら、相続手続きには法定相続人全員の協力(実印の押印や印鑑証明書の提出など)が必要となる場面が多々あるからです。

法定相続人の中に遺贈を快く思わない人が一人でもいると、手続きへの協力を拒まれ、受遺者はいつまで経っても財産を受け取れないという事態に陥りかねません。

しかし、遺言執行者がいれば、単独でこれらの手続きを進めることができます。相続人の協力を得る必要はありません。受遺者を遺言執行者に指定することも可能ですが、手続きの煩雑さや相続人との感情的な対立を避けるため、司法書士や弁護士などの専門家を指定しておくことをおすすめします。

5 どの遺言方式を選ぶべきか?【公正証書遺言のすすめ】

遺贈という、相続人との間でトラブルになる可能性を秘めた内容の遺言を作成する場合、どの方式を選ぶかは極めて重要です。結論から言えば、「公正証書遺言」で作成することを強く推奨します。

方式メリットデメリット
自筆証書遺言・費用が安い
・いつでも手軽に作成できる
・要件不備で無効になるリスクが高い
・紛失、改ざん、隠匿のリスクがある
・死後、家庭裁判所の検認手続きが必要(法務局保管以外)
公正証書遺言無効になるリスクが極めて低い
・原本が公証役場に保管され安全
・家庭裁判所の検認が不要
・専門家である公証人が関与する
・作成に費用と手間がかかる
・証人2名の立会いが必要
秘密証書遺言・内容を秘密にできる・要件不備で無効になるリスクがある
・死後、家庭裁判所の検認手続きが必要
・利用されるケースは非常に少ない

相続人以外への遺贈は、手続きが複雑になりがちです。自筆証書遺言では、記載の不備で遺言自体が無効になったり、相続人から「本当に本人が書いたのか」と遺言の有効性を争われたりするリスクがあります。

その点、法律の専門家である公証人が作成に関与する公正証書遺言は、無効になるリスクが限りなく低く、原本も公証役場で保管されるため安全・確実です。また、死後の検認手続きが不要なため、受遺者はよりスムーズに財産を受け取ることができます。多少の費用と手間をかけてでも、ご自身の最後の想いを確実に実現するためには、公正証書遺言が最善の選択と言えるでしょう。

6 まとめ|あなたの想いを確実な形にするために

本記事では、相続人以外の大切な人へ財産を遺す「遺贈」について、その基本から具体的な方法、注意点までを詳しく解説してきました。

【本記事のポイント】

  • 遺言書があれば、法定相続人以外の人や団体にも自由に財産を遺せる(遺贈)。
  • 遺贈には特定の財産を譲る「特定遺贈」と、割合で譲る「包括遺贈」がある。
  • 遺言書には「誰に」「何を」遺贈するのかを正確・詳細に記載する必要がある。
  • トラブル防止のため「遺留分」「高額な税負担」「遺言執行者の指定」には必ず配慮する。
  • 複雑な遺贈を確実に行うには、公正証書遺言が最も適している。

ご自身の財産を誰に託すかは、あなたの人生の集大成ともいえる大切な意思表示です。その尊い想いを、法的に不備のない、そして残された方々が困らない形で実現するためには、専門的な知識と周到な準備が欠かせません。

もし少しでもご不安な点があれば、ぜひ一度、私たち司法書士のような相続・遺言の専門家にご相談ください。あなたの想いを丁寧に伺い、法律の側面から最善の形にするお手伝いをさせていただきます。

この記事が役に立ったらシェアをお願いします

相続・遺言トータルサポート

当事務所では、相続・遺言に関する手続きをすべてサポートいたします。

ご自身での手続きに不安があるようでしたら、当事務所までご相談ください。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA