「相続手続きを終えた後に、遺言書が見つかってしまいました…」というご相談は、珍しいものではありません。
このようなケースの対応は、
- 遺言書の取り扱いはどうしたらよいのか
- すでに終えた遺産分割協議をやり直す必要があるのか
といった、2点がポイントとなります。
ここでは、遺産分割協議の後に遺言書が見つかった場合の対応について、ご説明していきます。
目次
1.遺言の効力は優先される
遺言は、亡くなった人の最後の意思表示であり、その効力は相続手続きにおいて最大限尊重されます。
そのため、遺言書が発見されたのが遺産分割協議を終えた後だったとしても、原則として、遺言書の内容は優先されます。
とはいえ、相続人全員がすでに終えた遺産分割協議の内容を優先させたいと思っている場合には、あえて協議をやり直す必要はありません(一部例外があるので後述します)。
したがって、このようなケースでは、
- 相続人全員に遺言書が発見された旨を知らせること
- 遺言書の内容を相続人の全員で確認すること
の2点が必要となります。
この2点は、次項で説明する「遺言書の検認」をすることによって、満たすことができます。
2.家庭裁判所に検認の手続きを請求する
法律では、遺言書を発見した人は、家庭裁判所に「検認」の手続きを請求しなければならないと定められています。遺産分割協議の後に遺言を発見した場合でも、遺言書の検認は必要です。
民法第1004条(遺言書の検認)
1.遺言書の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければならない。遺言書の保管者がない場合において、相続人が遺言書を発見した後も、同様とする。
2.前項の規定は、公正証書による遺言については、適用しない。
3.(略)
遺言書の検認を請求すると、家庭裁判所から相続人の全員に対して通知がなされます。
通知の内容は、「被相続人◯◯さんの遺言書が発見されました。◯月◯日に遺言書を確認するので、家庭裁判所に集まってくださいね」といったものです。
遺言書の検認の期日には、出席した相続人立会のもと、家庭裁判所において遺言書を開封しその内容を確認します。このような手順を踏むことで、遺言書の偽造・変造を防ぐことができます。
注意点として、遺言書の検認は、「①遺言書(と思われるもの)の存在と、②そこに書かれている内容を確認する」だけの役割しか果たせません。つまり、遺言書の有効・無効を判断する効力は持たないということです。
遺言書の内容自体に争いがある場合は、別に訴訟を提起することになります。
2−1.封印のある遺言書
封印のある遺言書は、検認の手続きを経て開封しなければならないとされており、これに違反すると5万円以下の過料に処される可能性があります。
民法第1004条(遺言書の検認)
1.2(略)
3.封印のある遺言書は、家庭裁判所において相続人又はその代理人の立会いがなければ、開封することができない。
民法第1005条(過料)
前条の規定により遺言書を提出することを怠り、その検認を経ないで遺言を執行し、又は家庭裁判所外においてその開封をした者は、五万円以下の過料に処する。
したがって、封印のある遺言書は開封せずに、家庭裁判所に検認の手続きを請求するようにしましょう。
法律では、遺言書を開封してしまった場合の過料の規定が定められていますが、現実に過料を課されることは滅多にありません。
「遺言書と分からず開封してしまった…」という人も、怖がらずに遺言書の検認を請求するようにしましょう。
2−2.遺言書は隠してはいけない
たとえ、自分に不利な内容が書かれていたとしても、遺言書は隠してはいけません。遺言書を隠した人は、「相続人の欠格事由」にあたることになり、文字通り1円も相続することができなくなります。
したがって、遺産分割協議後に遺言書を発見した場合でも、隠すことはやめておきましょう。
民法第891条(相続人の欠格事由)
次に掲げる者は、相続人となることができない。
一 号〜四号(略)
五 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者
相続人の欠格事由にあたる人は、相続人では無くなるため、「遺留分」も失います。
発見した遺言書に自分の取り分が1円も書かれていなくても、遺留分を請求する権利はありますので、やはり遺言書を隠すべきではないでしょう。
※兄弟姉妹の相続人に、遺留分はありません。
※遺留分については、こちら↓の記事が参考になります。
3.相続人全員の意思を確認
遺言書の検認を経てその内容を確認した後は、相続人全員の意思を確認しましょう。
相続人の全員が、すでに終えた遺産分割協議の内容で納得しているのなら、あえて協議をやり直さなくてもよいでしょう。
ただし、
- 遺言書で遺言執行者が選任されていた場合
- 遺言による認知によって、新たな相続人が発見された場合
- 相続人以外の人へ財産を譲る旨の遺言がなされていた場合
は、それぞれに対応が必要になります。
3−1.遺言執行者が選任されていた場合
遺言者は、その遺言内容を実現するために「遺言執行者」を選任することができます。新たに発見された遺言書に遺言執行者が選任されていた場合は、協議をやり直すかの判断は、その遺言執行者に一任することになります。
民法第1006条(遺言執行者の指定)
1.遺言者は、遺言で、一人又は数人の遺言執行者を指定し、又はその指定を第三者に委託することができる。
2.3項(略)
遺言執行者については、こちら↓の記事が参考になります。
3−2.遺言による認知によって新たな相続人が発見された場合
遺言者は、遺言によって自分の子を「認知」することができます。
遺産分割協議は相続人の全員で協議をする必要がありますので、認知された子を交えて、新たに協議を行うことになります。
民法第781条(認知の方式)
1.(略)
2.認知は、遺言によっても、することができる。
3−3.相続人以外の人へ財産を譲る旨の遺言がなされていた場合
遺言者は、相続人以外の人へ自分の遺産を譲ることもできます。遺言書にこの旨が記載されていた場合は、その人を交えて再度の協議が必要となります。
4.まとめ
- 原則として、遺言書の内容は優先される
- 遺言書の発見者は、家庭裁判所へ、遺言書の検認の請求をする
- 相続人の全員が、すでに終えた遺産分割協議の内容で納得している場合は、あえて協議をやり直す必要はない
- 遺言書に次のような記載があれば、状況に応じた対応が必要になる
- 遺言執行者が選任されている場合
- 遺言によって認知された相続人がいる場合
- 相続人以外の人へ財産を譲る旨が記載されていた場合
ここでは、遺産分割協議の後に遺言書を発見した場合の対応を見てきましたが、いかがだったでしょうか。
遺言の効力は、相続手続きにおいて最大限尊重されます。
遺言書を発見した場合は、たとえ自分に不利な内容が書かれていたとしても、適切な対応をとられることをおすすめします。