相続放棄をする理由は人それぞれです。多くの人は、被相続人(亡くなった)に多額の借金があることを理由にして相続放棄をされることでしょう。
しかし、一旦相続放棄をしたものの、後になって別の事実が発覚し「やっぱり相続放棄しなければよかった」、「相続放棄を取り消せないか」と思われる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
結論からいうと、相続放棄をした理由に一定の事情がある場合は、一旦受理された相続放棄でも取り消すことができます。
ここでは、相続放棄の取消しについてご説明していきます。
目次
1.相続放棄が取り消せるケース
相続放棄とは、被相続人(亡くなった人)のプラスの財産とマイナスの財産のすべてを、文字通り「放棄」する手続きです。一旦裁判所に受理されれば、原則として撤回することはできません。
ただし、相続放棄をした理由が、第三者からの詐欺や強迫によるものだった場合は例外です。このような事情があれば、一旦受理された相続放棄でも取り消すことができます。
民法 第915条(相続の承認及び放棄の撤回及び取消し)
1.相続の承認及び放棄は、第915条第一項の期間内でも、撤回することができない。
2.前項の規定は、第1編(総則)及び前編(親族)の規定により相続の承認又は放棄の取消しをすることを妨げない。
3.前項の取消権は、追認をすることができる時から六箇月間行使しないときは、時効によって消滅する。相続の承認又は放棄の時から十年を経過したときも、同様とする。
4.第2項の規定により限定承認又は相続の放棄の取消しをしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。
1−1.詐欺や強迫により相続放棄をした場合は、取り消すことができる
たとえば、他の相続人から「被相続人には多額の借金がある。相続放棄をしないと大変なことになる」などと言われて相続放棄をしたとします。
しかし、後になって被相続人には借金など全くないことが判明。他の相続人の言った言葉は自分が遺産を独り占めするための嘘だったことが分かります。
こうした場合は、他の相続人の言葉に騙されて(詐欺されて)相続放棄をした場合にあたるので、一旦受理された相続放棄でも取り消すことが可能となります。
また、他の相続人から「相続放棄をしないと危害を加える」などと脅された場合も、「強迫」をされて相続放棄をした場合にあたり、取り消すことができます。
2.相続放棄取消しの期間
相続放棄を取り消すことができる期間は次のとおりです。いずれかの期間を経過することにより、相続放棄の取消権は消滅します。
- 詐欺されたことを知ったときから6ヶ月
- 強迫状態を脱したときから6ヶ月
- 相続放棄の申述から10年
これを見て分かるとおり、相続放棄取消しの期間はかなり短く設定されています。実際に相続放棄の取消しをしようとお考えの方は、早めの行動を心がけましょう。
民法 第915条(相続の承認及び放棄の撤回及び取消し)
1.2(省略)
3.前項の取消権は、追認をすることができる時から六箇月間行使しないときは、時効によって消滅する。相続の承認又は放棄の時から十年を経過したときも、同様とする。
4.(省略)
3.相続放棄取消しの方法
実際に相続放棄の取消しをするには、相続放棄の申述が受理された家庭裁判所に「相続放棄取消しの申述」をします。これが受理されると相続放棄の効力が失われ、遺産を相続することができます。
民法 第915条(相続の承認及び放棄の撤回及び取消し)
1.2.3(省略)
4.第2項の規定により限定承認又は相続の放棄の取消しをしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。
4.相続放棄が受理される前なら取下げができる
一旦相続放棄書類を家庭裁判所に提出しても、これが受理される前なら取り下げることができます。相続放棄は家庭裁判所に受理されることで、はじめて効力を持つためです。
5.相続放棄の取消しまとめ
相続放棄取消しのポイントは次のとおりです。
- 相続放棄の取消しは、原則としてできない
- 詐欺や強迫をされて相続放棄をした場合は、例外的に相続放棄の取消しができる
- 相続放棄取消権は、①詐欺されたことを知ったときから6ヶ月、②強迫状態を脱したときから6ヶ月、③相続放棄の申述から10年、のいずれかの期間を経過した時に消滅する
- 相続放棄の取消しの申述は、相続放棄が受理された家庭裁判所に対して行う
- 一旦相続放棄書類を家庭裁判所に提出しても、これが受理される前なら取り下げることができる
ここでは、相続放棄の取消しについて見てきましたが、いかがだったでしょうか。
特に注意すべき点は、取消しの期間制限が非常に短く設定されている点でしょう。実際に相続放棄の取消しをお考えの方は、お早めに行動に移されることをおすすめしておきます。