遺言書の内容は、相続手続きにおいて最大限に尊重されます。
遺言書に記載されているたった1行の文言で、相続人が取得できる遺産に数千万の違いがでることも珍しくありません(たとえば、有効な遺言書に「私の財産の内、預貯金1,000万円はAに譲る」と書くだけで、Aには1,000万円を受け取る権利が発生します)。
非常に強力な効力を持つ遺言書なだけに、その発見後に相続人が取るべき行動は、法律にきちんと定められています。
ここでは、遺言書を発見した後にとるべき行動について、ご説明していきます。
目次
1.遺言書の種類を確認
まず、発見した遺言書の種類を確認しましょう。遺言書の種類で主に使われているのは、
- 自筆証書遺言
- 公正証書遺言
の2種類となりますので、この2種類を覚えておけば問題ないでしょう。
2.自筆証書遺言
自筆証書遺言とは、その名の通り自分で自書した遺言書のことです。
自分で作成して、自分で保管します。保管場所は遺言作成者しか知り得ないため、故人から遺言書を作成したことを聞いていなければ、見つけにくいこともあるでしょう。
故人が貴重品を保管していた場所などを、探してみることをおすすめします。
2−1.遺言書の検認
自筆証書遺言を発見したら、家庭裁判所で「検認」の手続きが必要になります。
民法第1004条(遺言書の検認)
1.遺言書の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければならない。遺言書の保管者がない場合において、相続人が遺言書を発見した後も、同様とする。
2.3(略)
遺言書の検認を請求すると、家庭裁判所から相続人の全員に対して通知がなされます。
通知の内容は、「被相続人◯◯さんの遺言書が発見されました。◯月◯日に遺言書を確認するので、家庭裁判所に集まってくださいね」といったものです。
遺言書の検認の期日には、出席した相続人立会のもと、家庭裁判所において遺言書を開封しその内容を確認します。このような手順を踏むことで、遺言書の偽造・変造を防ぐことができます。
注意点として、遺言書の検認は、「①遺言書(と思われるもの)の存在と、②そこに書かれている内容を確認する」だけの役割しか果たせません。つまり、遺言書の有効・無効を判断する効力は持たないということです。
遺言書の内容自体に争いがある場合は、別に訴訟を提起することになります。
遺言書検認の手続きについては、こちらの裁判所HPをご覧ください。
2−2.遺言書は開封してはいけない
発見した遺言書が封筒に入っていた場合は、開封してはいけません。
遺言書検認前に開封してしまった場合は、5万円以下の過料に処される可能性があります。
民法第1004条(遺言書の検認)
1.2(略)
3.封印のある遺言書は、家庭裁判所において相続人又はその代理人の立会いがなければ、開封することができない。
民法第1005条(過料)
前条の規定により遺言書を提出することを怠り、その検認を経ないで遺言を執行し、又は家庭裁判所外においてその開封をした者は、五万円以下の過料に処する。
したがって、封筒に入った遺言書は開封せずに、家庭裁判所に検認の手続きを請求するようにしましょう。
法律では、遺言書を開封してしまった場合の過料の規定が定められていますが、現実に過料を課されることは滅多にありません。
「遺言書と分からず開封してしまった…」という人も、怖がらずに遺言書の検認を請求するようにしましょう。
3.公正証書遺言
公正証書遺言とは、公証人に作成してもらう遺言のことです。表紙に「公正証書遺言」と大きく書かれているので、自筆証書遺言との区別は容易にできます。
作成をすると、正本と謄本の2通が交付され、原本は公証人役場で保管されます。
もし、交付された公正証書遺言をなくしてしまっても、公証人役場に問い合わせをすれば原本が保管されているので、探し出すことができます。
3−1.公正証書遺言に検認は不要
公正証書遺言に「検認」の手続きは不要です。
第1004条(遺言書の検認)
1.遺言書の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければならない。遺言書の保管者がない場合において、相続人が遺言書を発見した後も、同様とする。
2.前項の規定は、公正証書による遺言については、適用しない。
3.(略)
4.遺言執行者に連絡をしておく
遺言者は、その遺言内容を実現するために「遺言執行者」を指定することができます。
発見した遺言に遺言執行者が定められていた場合には、連絡をしておくとよいでしょう。
遺言執行者は、遺言内容を実現するために多くの権限を持ちますので、その後の処理は遺言執行者に一任してしまっても問題ありません。
5.自分に不利なことが書かれている遺言でも隠してはいけない
たとえ、自分に不利な内容が書かれていたとしても、遺言書は隠してはいけません。遺言書を隠した人は、「相続人の欠格事由」にあたることになり、文字通り1円も相続することができなくなります。
民法第891条(相続人の欠格事由)
次に掲げる者は、相続人となることができない。
一 号〜四号(略)
五 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者
相続人の欠格事由にあたる人は、相続人では無くなるため、「遺留分」も失います。
発見した遺言書に自分の取り分が1円も書かれていなくても、遺留分を請求する権利はありますので、やはり遺言書は隠すべきではないでしょう。
※兄弟姉妹の相続人に、遺留分はありません。
※遺留分については、こちら↓の記事が参考になります。
6.まとめ
- 遺言書発見後の対応は、法律にきちんと定められている
- 発見した遺言書が、自筆証書遺言だった場合は、家庭裁判所で「検認」の手続きが必要になる(公正証書遺言に検認は不要)
- 封筒に入った自筆証書遺言は、開封してはいけない
- 発見した遺言書は、隠してはいけない。遺言書を隠すと「相続人の欠格事由」にあたり、1円も相続できなくなる
- 遺言書に「遺言執行者」が定められていた場合は、連絡をしておくとよい。後の処理は、遺言執行者に一任できる
ここでは、遺言書を発見した後の対応について見てきましたが、いかがだったでしょうか。
遺言書の内容は、相続手続きにおいて最大限に尊重されます。発見した遺言書が自筆証書遺言だった場合は、家庭裁判所での検認の手続きを忘れないようにしましょう。
ここでの記事が、あなたの参考になれば幸いです。