「私は、遺言書を書いたほうがよいですか?」というご質問をよく受けます。
最近では、TVなどのメディアで遺言書が取り上げられることも多くなってきたため、その効力をきちんと理解される方々が増えてきたように感じます。
冒頭の質問の原則的なお答えとしては、
- 自分の考えで、相続財産を分配する方法がある程度決まっている人
は、遺言書を書いておいたほうがよいでしょう。
しかし、ある一定の状況にある方々については、
- きちんと遺言書を書いておかないと、いざ相続がはじまったときに手続きがスムーズに進まず、場合によっては、訴訟対応が必要となる
可能性があります。このような方々にとっては、遺言書の準備は必須となりますので、ここでご説明していきます。
目次
1.子供がいない夫婦
子供のいないご夫婦の多くは、ご自身の相続人を誤解されています。その誤解とは、「自分が死亡した場合には、配偶者が100%の相続権を得る」と思われている点です。
配偶者の相続分の割合は、他の相続人が誰になるかによって変動し、たとえば、兄弟姉妹が同時に相続人になる場合は、配偶者の相続分は、4分の3の割合となります。
※相続人になる人と、その順番は次の表のとおりです。
子のいない夫婦の場合、次の3パターンのどれかに当てはまります。
- 親が生存していれば、
→配偶者3分の2、親3分の1 - 親がすでに亡くなっていて、兄弟姉妹がいれば、
→配偶者4分の3、兄弟姉妹4分の1 - 親も兄弟姉妹もいなければ、
→配偶者がすべて相続
したがって、このような状況で配偶者に100%の財産を残したいと考える場合は、遺言の準備が必須となります。
子のいないご夫婦の遺言については、こちら↓の記事が参考になります。
2.相続人以外の人へ財産を残したい人
遺言で指定をすれば、相続人以外の人に財産を譲ることもできます。遺言によって財産を譲る人は遺言者が自由に決定できるので、このようなことも可能になります。
また、逆に言えば、「相続人」になる人は法律によって定められていますので、自身の死後に相続人以外の人へ財産を譲るためには、原則として、遺言書を残しておくしか方法はありません(厳密に言えば、死因贈与契約というものもありますが)。
実際にも以下のような理由で、相続人以外の人へ財産を譲る人が増えてきています。
- お世話になったご近所さんや施設へ
- 最後まで面倒を見てくれた甥っ子に
- 結婚はしていないが、生活を共にしてきた内縁の妻の今後のために
- 同居して面倒をみてくれた子供の配偶者へ
なお、相続人以外の人へ財産を譲ることを法律の用語で「遺贈」といいます。
相続人以外の人へ財産を譲る遺言書の書き方は、こちら↓の記事を参考にしてください。
3.複数回結婚している人
「相続」の手続きは、次のような手順で進んでいきます。
- 被相続人の死亡(相続の開始)
- 相続人を確定する
- 遺産を確定する
- 遺産をどのように分けるのか、相続人全員で協議をする(遺産分割協議)
- ④で決めた割合にしたがって、遺産を承継する
上記の手順のうち、最重要となるのは、④の遺産分割協議です。この協議は、相続人の全員で協議をし、全員で合意をしなければなりません。もし、一人でも合意のできない相続人がいれば、協議はそこで停滞し、場合によっては、家庭裁判所で「遺産分割調停」などの手続きが必要になります。
相続人の全員が顔見知りであり、話し合いができる関係性であれば、協議はまとまりやすいでしょう。
しかし、被相続人(亡くなった人)が複数回結婚しているなどして、前妻の子と後妻の子が同時に相続人となるようなケースでは、お互いに顔を見たことがない、会話もしたことがない、といった状況も生まれてきます。このような状況下では、協議はまとまりにくくなってしまうでしょう。
遺言によって遺産分割の方法を指定しておけば、相続人の全員でする遺産分割協議を省略することができるので、手続きをスムーズに進めることができます。
4.事業を運営をしている人
ここでいう「事業を運営している人」とは、
- 個人事業主
- 会社を運営している人
の双方を指します。両者とも遺言によって、事業承継の対策をとることができます。
4−1.個人事業主と遺言
個人事業主の遺言のポイントは、「後継者に事業用資産を集中させる」ことです。
個人事業主の資産は、個人の資産とは区別されません。相続が発生した場合は、事業用の資産を含めて相続の対象となります。
事業用の資産をスムーズに後継者に承継させるために、遺言書の作成がおすすめです。
個人事業主の相続について、詳しくはこちら↓をご覧ください。
4−2.会社の相続と遺言
会社の相続においてポイントとなるのは、「株式の相続」です。
会社の仕組みでは、株式をたくさん持っている人が、株主総会において、その会社の代表者を選任することができます。
そして、株式の所有権は個人に帰属するため、相続の対象となります。
つまり、亡くなった会社の代表者が持っていた株式を次期代表者に相続させて、株主総会において自身を代表に選任すればよいわけです。
この株式を相続させるために、遺言の活用がおすすめです。
会社の相続について、詳しくはこちら↓をご覧ください
5.配偶者が認知症の人
認知症などで判断能力が不十分な人は、各種の契約や遺産分割協議などの法律行為を自分で行うことが困難となります。こうした方々をサポートするために、親族らの請求によって家庭裁判所は成年後見人を選任します。
成年後見人は、本人に代わって様々な契約をすることや本人の財産を管理する権限を持ちます。この権限により、成年後見人は本人の代わりに遺産分割協議に参加することができます。
ただし、遺産分割協議で成年後見制度を利用する際には、次の2点に留意する必要があります。
- 成年後見制度は本人の利益を守るための制度なので、本人の法定相続分を下回るような協議を成立させるのは難しいこと
- 遺産分割協議終了後も、成年後見人による財産管理は続くこと
成年後見制度は、本人の利益を守るための大切な制度なのですが、上記のような留意点があることを理解して、利用を慎重に検討する必要があります。
この点、遺言書を書いておけば、成年後見制度の利用をせずに、スムーズに遺産を承継することが可能となります。
認知症の人との遺産分割協議について、詳しくはこちら↓の記事をご覧ください。
6.相続人の中に行方不明者がいる
遺産分割協議は、相続人の全員で協議をし、全員が合意をすることが必要です。この相続人の中に、行方不明の人がいる場合は、そもそも協議を開催することができません。
このような場合には、裁判所をとおして、不在者財産管理人という制度を利用することになりますが、この制度を利用するためには、ある程度の費用と時間がかかります。
遺言書で遺産分割協議の方法を指定しておけば、この制度を利用せずとも、相続手続きを進めることが可能となります。
行方不明者と遺産分割協議をする方法について、詳しくはこちら↓をご覧ください。
7.まとめ
ここでは、遺言書を書いた方がよい人について見てきましたが、いかがだったでしょうか。
ここに書かれているような状況にある方々は、いざ相続が始まったときに困ったことにならないよう、きちんと遺言書を残しておくことをおすすめします。
★遺言書を書いておいたほうがよい人