成年後見制度を利用すれば、認知症の方の不動産を売却することができます。
とはいえ、成年後見制度は、本人の利益を守るための制度。成年後見人は、本人のすべての不動産を無条件に売却できるわけではありません。
ここでは、成年後見制度と不動産の売却についてご説明していきます。
1.不動産の売買契約を有効に締結するためには
不動産の売買などの契約を有効に締結するためには、契約当事者の意思能力が必要です。認知症などで自分の意思をしっかり表示することが困難になってしまった人は、成年後見人が本人に代わって契約をすることで、売買契約を有効に締結できるようになります。
もっとも、成年後見人は、本人のすべての不動産を無条件に売却できるわけではありません。
成年後見人が本人の不動産の売却をするためには、
- その不動産の売却が本人にとって必要であること
- 居住用不動産の場合は、家庭裁判所の許可を得ること
という2点が必要になります。
2.不動産の売却が本人にとって必要であること
本人にとって必要な不動産の売却とは、たとえば、
- 売却代金から本人の生活費を捻出するため
- 売却代金を、施設入所費、入院費等に充てるため
など、本人のよりよい生活を実現するためのものです。
一方で、
- 本人の親族を援助するために、不動産を低価格で売却すること
- 他人の債務の担保のために抵当権を設定すること
などは、本人にとって必要なものとはいえません。
3.居住用不動産の売却は、家庭裁判所の許可を得ること
本人の居住用不動産の売却は、家庭裁判所の許可を得て行う必要があります。
民法第859条の3(成年被後見人の居住用不動産の処分についての許可)
成年後見人は、成年被後見人に代わって、その居住の用に供する建物又はその敷地について、売却、賃貸、賃貸借の解除又は抵当権の設定その他これらに準ずる処分をするには、家庭裁判所の許可を得なければならない。
居住用不動産の売却は、本人の精神面に大きな影響を与えるものと考えられてるため、このような取り扱いになっています。
3−1.居住用不動産とは
居住用不動産とは、本人が現在居住している不動産に限られません。
たとえば、
- 施設入所中である本人が、入所直前まで居住していた建物
- 入院中の本人が、退院後に帰る予定の建物
などは、居住用不動産に含まれます。
4.まとめ
- 自分の意思をきちんと表示できない人でも、成年後見人が本人に代わって契約を締結すれば、有効に不動産の売却ができる
- ただし、本人のすべての不動産を自由に売却できるわけではなく、本人のよりよい生活を実現するための売却でなければならない
- 居住用不動産の売却は家庭裁判所の許可が必要になる
以上、成年後見制度と不動産の売却について見てきました。
成年後見制度は、本人の利益を守るための制度です。この制度の趣旨に反するような不動産の売却は、認められないことを覚えておきましょう。
ここでの記事が、あなたの参考になれば幸いです。