正しく使えば便利な遺言ですが、偽造などのよからぬことを考える人がいることもまた事実。遺言を偽造した人は相続人の欠格事由というものにあたり、相続権を剥奪されます。
ここでは、遺言の偽造についてご説明していきます。
1.遺言の偽造
遺言は遺産相続において強力な効力を持ちます。遺言によって、遺産を相続する人やその分配方法まで自由に決めることができるからです。
正しい使い方をすればとても便利な遺言ですが、その効力が強力すぎるがゆえに、よからぬことを考える人がいることもまた事実。
もし、遺言を偽造された場合はどうすればよいのでしょうか。また、偽造した人はどうなるのでしょうか。
2.偽造される遺言の種類
遺言の偽造には、①遺言内容自体を改変した、②遺言者になりすまして遺言を作成した、③認知症などの人を騙して遺言を作成させた、といった3パターンが考えられます。
そして偽造される可能性のある遺言とは、自筆証書遺言です。公正証書遺言は証人2人の立ち会いのもと、法律の専門家である公証人が作成してくれますから、偽造をする余地がありません。
したがって、ここで遺言の偽造といったら、自筆証書遺言の偽造を指すものとして読み進めてください。
3.遺言が偽造されていた場合には
自筆証書遺言は、家庭裁判所で検認という手続きが必要になります。裁判所が入れば安心、と思われるかもしれませんが、この検認の手続は自筆証書遺言の有効性の有無とは無関係。したがって、検認の手続が適正に行われたからといって、残された遺言が有効であると判断されるわけではありません。
遺言内容の真否を問いたい場合には、遺言無効確認訴訟(調停もあり)を提起することになります。そして筆跡鑑定の証拠書類などを提出して、遺言の無効を認めてもらう必要があるのです。
4.遺言を偽造した人は
遺言を偽造した人は、相続人の欠格事由にあたり相続権を剥奪されます。
民法891条(相続人の欠格事由)
次に掲げる者は、相続人となることができない。
一 故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者
二 被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない。
三 詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者
四 詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者
五 相続に関する被相続人の遺言を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者
上記民法891条にあるとおり、遺言を偽造した人だけではなく、詐欺や強迫によって被相続人(亡くなった人)の遺言に影響を与えたことも相続人の欠格事由にあたります。相続欠格者は遺留分も失いますので、文字通り1円も相続することはできません。
このように、遺言に不当に干渉した人にはかなりきついペナルティが待っています。自分に不利な遺言を残された場合、つい魔が差してしまうこともありそうですが、よからぬことは考えないほうがよいでしょう。そうすれば、最低限遺留分の確保はできます(兄弟姉妹以外)。
5.遺言の偽造まとめ
以上見てきた遺言の偽造について、次の5点にまとめておきます。
- 偽造される可能性のある遺言は、自筆証書遺言。公正証書遺言を偽造される可能性は、極めて低い
- 家庭裁判所での検認の手続は自筆証書遺言の有効性の有無とは無関係。検認の手続が適正に行われたからといって、残された遺言が有効であると判断されるわけではない
- 遺言内容の真否を問いたい場合には、遺言無効確認訴訟(調停もあり)を提起することになる
- 遺言を偽造した人は、相続人の欠格事由にあたり相続権を剥奪される
- 相続欠格者は遺留分も失うので、文字通り1円も相続することはできない
ここでは、遺言の偽造について見てきましたが、いかがだったでしょうか。
このようなリスクを回避するためにも、偽造される可能性の低い公正証書遺の作成をおすすめしておきます。
コメントを残す