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【司法書士が解説】遺言と異なる遺産分割は可能?実現するための条件と注意点を徹底解説

ノートと紅葉

「父の遺言書が見つかったけれど、書かれている内容に家族全員が納得しているわけではない…」
「長男の私がすべて相続する内容になっているが、母の老後や弟の生活を考えると、遺言通りでいいのか悩む…」
「相続人みんなで話し合って、円満に財産を分けたい。でも、遺言がある場合は絶対に従わなければならないのだろうか?」

亡くなった方(被相続人)が遺してくれた遺言は、故人の最後の意思として非常に尊重されるべきものです。しかし、残されたご家族の状況や想いによっては、遺言の内容とは異なる形で遺産を分けたいと考えるケースも少なくありません。

結論から申し上げると、相続人や受遺者など、関係者全員の同意があるといった一定の条件を満たせば、遺言の内容と異なる遺産分割を行うことは可能です。

しかし、その手続きにはいくつかの重要なルールと注意点が存在します。安易に進めてしまうと、後から思わぬトラブルや予期せぬ税金問題に発展する可能性も否定できません。

この記事では、相続問題に詳しい司法書士が、遺言と異なる遺産分割を実現するための具体的な方法、認められるための条件、そして注意すべきポイントについて、専門的な観点から徹底的に解説していきます。この記事を最後までお読みいただければ、ご自身の状況で何が可能で、何をすべきか、明確な指針を得られるはずです。

1. なぜ遺言は優先される?相続の基本原則を理解する

まず、なぜ遺言が存在する場合に、その内容が法律の定め(法定相続)よりも優先されるのか、その基本原則から理解しておきましょう。

1-1. 遺言の内容は法定相続に優先される

相続が発生したとき、誰がどれくらいの割合で財産を受け継ぐかについては、民法で「法定相続人」の範囲と「法定相続分」という目安が定められています。

  • 法定相続人: 配偶者は常に相続人。その他、子、親、兄弟姉妹の順で優先順位が決まっています。
  • 法定相続分: 配偶者と子の場合は各2分の1、配偶者と親の場合は配偶者が3分の2で親が3分の1、といった具体的な割合が定められています。

遺言がない場合、相続人全員でこの法定相続分を目安に話し合い(遺産分割協議)を行い、最終的な財産の分け方を決定します。

一方で、被相続人が遺言を遺していた場合、この法律の定めよりも遺言の内容が優先されます。これは、ご自身の財産を誰に、どのように遺すかという最終的な意思(最終意思の尊重)を最大限に尊重すべき、という民法の大原則に基づいています。自分の財産は自分で自由に処分できる、という「私的自治の原則」が、亡くなった後にも及ぶものと考えられているのです。

1-2. 遺言の種類の違いは影響する?

遺言には主に「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3つの種類があります。

  • 自筆証書遺言: 遺言者本人が全文、日付、氏名を自書し、押印するもの。
  • 公正証書遺言: 公証役場で公証人と証人2名以上の立会いのもと作成するもの。
  • 秘密証書遺言: 内容を秘密にしたまま、遺言の存在だけを公証役場で証明してもらうもの。

どの種類の遺言であっても、法的に有効な形式で作成されていれば、その効力に優劣はありません。したがって、「自筆証書遺言だから効力が弱い」ということはなく、遺言と異なる遺産分割を検討する際も、どの種類の遺言であるかは直接的な論点にはなりません。

(参考記事:遺言には3つの種類があります)

2. 【原則】遺言と異なる遺産分割が「可能」なケースとその具体的要件

それでは、本題である遺言と異なる遺産分割が認められるケースについてです。最も基本的で重要なのは、関係者全員の同意がある場合です。

2-1. 絶対条件:相続人および受遺者「全員」の同意

遺言と異なる内容で遺産分割を行うためには、相続人全員の同意が不可欠です。一人でも遺言通りの分割を主張する相続人がいれば、この方法は使えません。遺言の効力が優先されます。

さらに、忘れてはならないのが「受遺者」の存在です。受遺者とは、遺言によって相続人ではない第三者(例えば、お世話になった友人や内縁の妻、特定の団体など)に財産を遺す「遺贈」によって、財産を受け取る人のことです。

この受遺者がいる場合、その受遺者の同意も必要になります。なぜなら、受遺者も遺言によって有効に財産を取得する権利を得ているため、その権利を無視して相続人だけで勝手に財産の分け方を変えることはできないからです。

【ポイント】

  • 法定相続人全員の同意が必要。
  • 遺贈がある場合は、受遺者全員の同意も必要。
  • 一人でも反対者がいれば、遺言と異なる遺産分割はできない。

2-2. トラブル防止の要:遺産分割協議書の作成

全員の合意が得られたら、その内容を口約束で終わらせてはいけません。後々の紛争を防止し、不動産の相続登記や預貯金の名義変更などの手続きをスムーズに進めるために、必ず「遺産分割協議書」を作成しましょう。

遺産分割協議書には、以下の内容を明確に記載します。

  • 被相続人の氏名、最後の住所、本籍、死亡年月日
  • 相続人全員が、遺言書が存在することを認識した上で、遺言書の内容とは異なる分割協議を行った旨
  • 誰が、どの財産を、どれだけ取得するのかという具体的な分割内容
  • 相続人全員が合意した日付
  • 相続人全員の住所、氏名を記載し、実印で押印
  • 全員分の印鑑登録証明書を添付

この書面があることで、全員の合意が客観的に証明され、法務局や金融機関も安心して手続きに応じることができます。

2-3. 具体的なケーススタディ

ここで、具体的な事例を考えてみましょう。

【ケース】

  • 被相続人:父
  • 相続人:母、長男、次男
  • 遺言の内容:「全財産(自宅不動産と預貯金5,000万円)を長男に相続させる」
  • 家族の状況:母は高齢で、長男の家に同居。次男は独立して家庭を持っている。

この遺言通りだと、母と次男は何も相続できません。長男は、「母の今後の生活費も確保したいし、次男にもいくらか財産を分けてあげたい」と考えました。そこで、家族3人で話し合いの場を持ちました。

長男:「父さんの遺言にはこう書いてあるけど、僕が全部もらうのは違うと思うんだ。母さんのこれからの生活もあるし、次男にも家の購入資金の足しにしてもらいたい。だから、遺言とは違うけど、こうやって分けるのはどうだろうか?自宅不動産は母さんが安心して住み続けられるように母さん名義にして、預貯金は僕と次男で2,500万円ずつ分ける、というのは。」

母:「あなたがそう言ってくれると安心するわ。ありがとう。」

次男:「兄さん、ありがとう。本当に助かるよ。僕もその内容で全く問題ないよ。」

このように相続人全員が心から納得し、合意に至りました。この後、3人は司法書士に依頼して、合意内容を盛り込んだ遺産分割協議書を作成し、それぞれが実印を押して印鑑証明書を添付しました。これにより、遺言とは異なる内容での円満な遺産分割が法的に有効な形で実現できたのです。

3. 【例外】遺言と異なる遺産分割が「できない・難しい」ケース

一方で、関係者全員の同意があっても、遺言と異なる遺産分割が原則として認められない、あるいは非常に困難になるケースが存在します。

3-1. 遺言執行者がいる場合

遺言書の中で「遺言執行者」が指定されている場合は、注意が必要です。

遺言執行者とは?

遺言執行者とは、その名の通り、遺言の内容をスムーズに実現するために必要な手続きを行う権限を与えられた人のことです。相続財産の管理、名義変更、引き渡しなど、遺言の執行に必要な一切の行為をする権利と義務を負います。遺言執行者には、相続人の一人が指定されることもあれば、弁護士や司法書士などの専門家が指定されることもあります。

なぜ遺言執行者がいると難しいのか?

民法には、以下のような条文があります。

民法第1013条(遺言の執行の妨害行為の禁止)

1.遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。

2.(略)

つまり、遺言執行者の任務は「遺言内容を実現すること」であり、相続人はその任務を妨害するような行為(=遺言に反する財産処分)をしてはならない、と定められているのです。遺言執行者がいるにもかかわらず、相続人が勝手に行った財産処分を無効とした判例も存在します。

参考記事:遺言内容の実現のために、遺言執行者を指定しましょう

解決策はあるか?

理論上は、遺言執行者の同意を得た上で、相続人・受遺者全員が合意すれば、遺言と異なる遺産分割も可能であるという考え方もあります。しかし、これは実務上、非常にハードルが高いと言えます。なぜなら、遺言執行者は故人の意思を実現する立場にあり、その意思に反する分割に安易に同意することは、その任務に反する可能性があるからです。

どうしても遺言と異なる分割をしたい場合、遺言執行者に正当な事由(任務を怠っているなど)があれば、家庭裁判所に解任を申し立てることも考えられますが、単に「遺言と違う分け方をしたいから」という理由だけでは解任は認められません。

したがって、「遺言執行者がいる場合は、原則として遺言と異なる遺産分割はできない」と理解しておくのが安全です。

3-2. 遺言で遺産分割が禁止されている場合

被相続人は、遺言によって遺産の分け方を指定するだけでなく、遺産の分割そのものを禁止することもできます。

民法第908条(遺産の分割の方法の指定及び遺産の分割の禁止)

被相続人は、遺言で、遺産の分割の方法を定め、若しくはこれを定めることを第三者に委託し、又は相続開始の時から五年を超えない期間を定めて、遺産の分割を禁ずることができる。

例えば、「相続開始から5年間は、事業で使っているこの土地を分割してはならない」といった定めです。これは、相続財産が事業用資産である場合など、すぐに分割してしまうと事業の継続が困難になったり、財産の価値が著しく下がったりするのを防ぐために利用されます。

このような遺産分割禁止の定めがある場合、その期間中は、たとえ相続人全員が同意したとしても、遺産分割を行うことはできません。この禁止条項に反して行われた遺産分割協議は無効となります。

4. 税務上の注意点 – 贈与税はかかるのか?

遺言と異なる遺産分割を行う際に、多くの方が心配されるのが税金の問題です。「遺言では私がもらうはずだった財産を、弟にあげたのだから、これは贈与にあたるのではないか?」「贈与税がかかってしまうのでは?」という疑問です。

4-1. 原則として贈与税はかからない

この点について、国税庁は明確な見解を示しています。

国税庁タックスアンサー No.4176 遺言書の内容と異なる遺産分割をした場合の相続税と贈与税

特定の相続人に全部の遺産を与える旨の遺言書がある場合に、相続人全員で遺言書の内容と異なった遺産分割をしたときには、受遺者である相続人が遺贈を事実上放棄し、共同相続人間で遺産分割が行われたとみるのが相当です。したがって、各人の相続税の課税価格は、相続人全員で行われた分割協議の内容によることとなります。

なお、受遺者である相続人から他の相続人に対して、贈与があったものとして贈与税が課されることにはなりません。

つまり、税務上は「①遺言で財産をもらうはずだった人がその権利を放棄し、②その上で、相続人全員であらためて遺産分割協議を行った」という構成で考えます。そのため、相続人間での財産の移動は「贈与」ではなく「遺産分割」と見なされ、原則として贈与税の対象にはなりません。課税関係は、あくまで相続税の枠内で処理されることになります。

4-2.【要注意】遺言通りの手続きを「終えた後」のやり直し

最も注意が必要なのは、すでに遺言の内容に従って不動産の相続登記や預貯金の名義変更を完了させてしまった後に、「やはり分け方を変えたい」と考えた場合です。

この段階で財産を動かすと、それはもはや「遺産分割」とは見なされません。法的には、一度、遺言通りに財産を取得した人から、他の相続人へ**「贈与」や「交換」が行われた**と判断される可能性が非常に高くなります。

そうなると、次のような余計な税金や費用が発生するリスクがあります。

  • 贈与税: 多額の贈与税が課される可能性があります。
  • 不動産取得税: 不動産を新たに取得した人に課税されます。
  • 登録免許税: 遺産分割(相続)を原因とする登記よりも高い税率が適用されます。

したがって、遺言と異なる遺産分割を検討しているのであれば、必ず相続登記や預貯金の名義変更といった具体的な手続きを進める前に行う必要があります。すでに手続きを終えてしまった場合は、安易に動かす前に必ず税理士や司法書士といった専門家にご相談ください。

5. ケース別Q&A – よくあるご質問

ここで、実務でよく受けるご質問をQ&A形式でまとめました。

Q1. 遺言の内容に納得できない相続人が一人だけいます。どうなりますか?
A1. 残念ながら、相続人が一人でも遺言と異なる分割に反対している場合、その方法をとることはできません。遺言は有効なものとして扱われ、原則として遺言通りの内容で相続手続きを進めることになります。

ただし、その遺言によってご自身の「遺留分」が侵害されている場合は、話が別です。遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に保障された最低限の遺産の取り分です。遺留分を侵害している相続人に対して、侵害額に相当する金銭を請求する「遺留分侵害額請求」を行うことができます。この請求権は、相続の開始と遺留分を侵害する遺贈等があったことを知った時から1年以内に行使する必要があります。

Q2. 遺産分割協議がまとまらないまま、相続税の申告期限(死亡後10ヶ月)が近づいています。どうすればよいですか?
A2. 遺産分割協議がまとまらない場合でも、相続税の申告と納税は期限内に行わなければなりません。この場合、一旦、法定相続分で相続したものとして仮の申告・納税を行います。

ただし、この未分割の状態では、「配偶者の税額軽減」や「小規模宅地等の特例」といった、相続税額を大幅に軽減できる特例が適用できません。これらの特例を適用するには、申告期限後3年以内に分割を終えるなどの要件があります。協議が長引くと税務上の不利益が生じる可能性があるため、早期の解決が望まれます。

Q3. 遺産分割協議書は自分で作成できますか?
A3. ご自身で作成することも不可能ではありません。しかし、法務局での不動産登記や金融機関での手続きでは、非常に厳格な書式や記載内容が求められます。記載漏れや些細なミスで手続きがストップしてしまうケースは少なくありません。 また、法的に有効な合意内容となっているか、後々のトラブルの火種となるような曖昧な表現はないか、といった専門的なチェックも必要です。スムーズで確実な手続きと将来の安心のためにも、遺産分割協議書の作成は、ぜひ司法書士にご依頼ください。

6. まとめ:円満な相続の実現のために

今回は、遺言と異なる遺産分割を行うための方法について、詳しく解説しました。最後に、重要なポイントをもう一度確認しておきましょう。

  1. 【可能な場合】
    • 遺言執行者がいない場合で、相続人および受遺者の全員が同意すれば、遺言と異なる内容で遺産分割をすることができる。その際は、必ず遺産分割協議書を作成する。
  2. 【不可能な場合】
    • 原則として、遺言執行者がいる場合は、その執行を妨げる行為はできない。
    • 遺言で遺産の分割が一定期間禁止されている場合は、その期間中はできない。
  3. 【税務上の注意】
    • 遺言と異なる分割を行っても、原則として贈与税はかからない。「遺産分割」として相続税の対象となる。
    • ただし、遺言通りの登記等を終えた後にやり直すと、「贈与」と見なされ、余計な税金がかかるリスクが非常に高い。

遺言と異なる遺産分割は、ご家族の事情に合わせた円満な解決策となり得ますが、見てきたように、多くの法的なルールや税務上の論点を含んでいます。特に、遺言執行者が関わるケースや、相続人同士で意見がまとまらないケース、不動産が絡むケースなどでは、ご自身たちだけの判断で進めるのは大変危険です。

「私たちの場合はどうだろうか?」「このまま進めて大丈夫だろうか?」と少しでもご不安に感じられたら、どうぞお気軽にお近くの司法書士にご相談ください。専門家として、皆様の状況に合わせた最適な解決策をご提案し、円満な相続の実現を全力でサポートいたします。

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