最近では、「親の遺産を放棄したい」といったご相談が増えています。
その理由としては、
- 親の作った借金を放棄したいから
- 両親が離婚したあと、数十年連絡を取っていなかったからもう相続に関わりたくない
など、様々なものがあります。
借金を放棄する方法としては、後述する「家庭裁判所での相続放棄の申述」を選択するしか方法はありません。しかし、その他の理由で放棄をされるのならば、いくつかの選択肢がありますので、そのメリット・デメリットを含めここで解説していきます。
1.家庭裁判所で相続放棄の申述をする
一つ目の選択肢は、家庭裁判所で「相続放棄の申述」をする方法です。
正式な相続放棄は、必ず家庭裁判所に申述しなければならず、単に相続人の間で「私は相続放棄をします」と話しただけでは、相続放棄の効力は生じません。
注意点として、相続放棄には、「被相続人(亡くなった人)の死亡を知ったときから3ヶ月以内」という期間制限があります。この期間を過ぎてしまうと相続放棄をすることができなくなってしまうため、実際に相続放棄をお考えの方は、お早めに行動に移されることをおすすめします。また、「被相続人の財産を処分してしまった場合」にも相続放棄をすることができなくなってしまいますので、この点にも注意しておきましょう。
民法921条(法定単純承認)
次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
一 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第602条 に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。
二 相続人が第915条第1項の期間内(被相続人の死亡を知った時から3か月以内)に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。
三 相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。
この相続放棄の特徴の一つとして、「被相続人の債務を放棄できる」という点が挙げられます。したがって、親に借金があってその返済義務を免れたい人は、必ず家庭裁判所でする相続放棄を選択してください。
2.遺産分割協議で、相続分の放棄をする
次の方法は、遺産分割協議で相続分の放棄をする方法です。
単純に相続分の放棄をするだけでしたら、遺産分割協議で1円も遺産をもらわない取り決めをすればよいだけです。
たとえば、
- 相続人がAとBの2人のみ
- Bは相続分を放棄したい
といった状況での遺産分割協議書は
相続人Aは、被相続人の遺産全部を取得するものとする |
とだけ記載すれば、Bは遺産の放棄ができます。
相続人同士の話し合いで親の遺産を承継する人が決まっている場合は、これがもっとも簡便な方法となります。
方法:遺産分割協議で相続分の放棄をする
期間:特になし
特記:債務を完全に放棄するためには、債権者の承諾が必要
【参考記事】
遺産分割協議で、債務を負担する人を決めることはできるのでしょうか。
たとえば、被相続人は遺産として不動産と、その不動産購入のためのローン(債務)を完済できずに残していたとします。このような状況では、通常、不動産を相続する人が、ローンも引き継いで支払っていくことになるでしょう。
しかし、このローンを返済する人を、遺産分割協議で完全に決めることはできません。法律では、不動産を相続したらそれに付帯する債務も当然に支払うことになる、という取り扱いにはならないのです。
このような場合は、まず、①遺産分割協議で不動産取得者が債務を負担することを決定(相続人間での合意)した後に、②債権者の承諾を得る(債務引受契約)という手続きが必要になります。債権者側からすると、債務の支払い能力のない人に返済義務を引き継がれては困るので、こうした取り扱いになっているのです(債権者を保護しているわけですね)。
3.相続分の譲渡をする
相続分の譲渡とは、「自分の相続人としての地位」を、そっくりそのまま他の人に譲り渡すことです。譲渡の対価は、有償でも無償でもかまいません。また、相続人でない第三者へ譲渡することも可能です。
相続分の譲渡をした人は、「相続人としても地位」を譲り渡したことになりますから、遺産分割協議から離脱することができます。
たとえば、
- 被相続人との関係性が薄くそもそも遺産分割協議に興味がない
- ほとんどの相続人で合意はできているが、一部の相続人がもめてしまっている
といった状況で、有効な手段となります。
なお、相続分の譲渡は、「プラスの財産とマイナスの財産とを包括した、遺産全体に対する譲渡人の割合的な持分を譲り渡すこと」と定義されているため、相続分に応じた債務も相続分譲渡の対象となります。ただし、この債務の移転は単に契約者間のみで有効となるにすぎず、相続分を譲り渡した人が債務の支払い義務を免れるためには、債権者の承諾が必要となります(前述した相続分の放棄と同じで、債権者を保護しているわけです)。
方法:他の相続人(または第三者)と相続分譲渡契約を締結する
期間:遺産分割協議の前
特記:債務を完全に移転させるためには、債権者の承諾が必要
【参考記事】
前述していますが、相続分の譲渡は、相続人以外の第三者にもすることができます。ただし、第三者へ譲渡する場合は、次のような点に注意してください。
- 他の相続人は1ヶ月以内に相続分の取戻権を行使できる
- まったく関係ない人へ相続分を譲渡してしまうと、遺産分割協議がまとまりにくくなる可能性がある
民法第905条(相続分の取戻権)
共同相続人の一人が遺産の分割前にその相続分を第三者に譲り渡したときは、他の共同相続人は、その価額及び費用を償還して、その相続分を譲り受けることができる。
前項の権利は、一箇月以内に行使しなければならない。
このような点に留意して、相続分の譲渡する相手方を決定してください。
4.まとめ
ここでは、親の遺産を放棄したい場合の3つの選択肢をみてきましたが、いかがだっでしょうか。
ポイントとして、親の借金を放棄したい人は、必ず家庭裁判所でする相続放棄を選択するようにしてください。その他の事情で放棄をされる方は、ご自身のやりやすい方法を選択されればよいかと思います。
ここでの記事が、あなたの参考になれば幸いです。
方法:家庭裁判所で申述をする
期間:被相続人の死亡を知ったときから3ヶ月以内
特記1:被相続人の財産を処分してはいけない
特記2:親の借金を放棄したい場合は、この方法しかない
【参考記事】