遺産分割協議とは、被相続人(亡くなった方)の遺産を相続人全員でどのように分けるのか協議をすること。遺産相続の最重要となるポイントです。
この遺産分割協議に利用される書類に、「相続分なきことの証明書」というものがあります。便利な使い方もできるこの書類ですが、利用の際にはいくつかの注意点がありますので、ここでご説明していきます。
通常の遺産分割協議については、こちら↓でご説明しています。
目次
1. 特別受益とは
相続分なきことの証明書を知るためには、まず特別受益という制度を知る必要があります。
特別受益とは、特定の相続人が被相続人(亡くなった人)から、特別の財産の贈与を受けていた場合の利益のこと。受け取った贈与の利益分を遺産分割の際の計算に入れることで、相続人間で公平に遺産分割協議をすることを目的としています。
つまり「あなただけ特別にいくらかの贈与を受けていたんだから、その贈与分を相続分から差し引いて、公平に遺産分割をしましょう」という制度です。
特別受益について、詳しくはこちら↓で解説しています。
2.相続分なきことの証明書と特別受益の関係
相続分なきことの証明書とは、特別受益に該当することを証明する書類のことです。その文面は、次のようなものになっています。
私は、平成◯◯年◯◯月◯◯日被相続人◯◯の死亡による相続につき、生計の資本としてすでに相続分相当の財産の贈与を受けております。したがって、相続する相続分のないことを証明します。 |
このような文面の書類に、当該相続人の署名・実印の捺印をして、印鑑証明書を添付します。
3.相続分なきことの証明書が利用されるケース
相続による不動産の名義変更登記(相続登記)をするための遺産分割協議書には、相続人全員の署名・捺印が必要です。一人でも相続人が欠けていれば、その遺産分割協議書は有効とはなりません。
しかし、相続分なきことの証明書を添付した相続人は、遺産分割協議書に署名・捺印する必要がなくなります。つまり、相続人全員で遺産分割協議書を作成しなくても、相続分なきことの証明書を添付すれば相続登記をすることが可能なのです。
これは、たとえば、相続人がABCの3人だとして、AB2名の署名・捺印のある遺産分割協議書と、C1名の相続分なきことの証明書を添付すれば、相続登記をすることができるということです。
このように、相続人全員分の署名・捺印を集めるには手間がかかるケースなどで、相続分なきことの証明書は有効活用することができます。
4.相続分なきことの証明書の注意点
このように便利な使い方もできる相続分なきことの証明書ですが、注意点を2点お伝えします。
4−1.相続放棄との関係
まず一つ目の注意点は、相続放棄との関係です。相続分なきことの証明書は相続放棄とは関係がありません。
前述したように、相続分なきことの証明書とは特別受益に該当することを証明する書類のことです。これは、相続するプラスの財産がないこと「だけ」を意味します。したがって、被相続人(亡くなった人)に借金などのマイナスの財産があれば、それは相続することになってしまいます。
たまに「相続分なきことの証明書を作成したから、もうこの相続とは関係がない」といった認識を持たれる方がいらっしゃいますが、相続放棄とは違い完全に無関係とはなりませんので注意しましょう。
4−2.贈与税との関係
2つ目の注意点は、贈与税との関係です。なぜなら、相続分なきことの証明書に署名・捺印することで、自ら「被相続人から生前贈与を受けています」と宣言しているからです。
5.現実に特別受益があった時にのみ作成するのがおすすめ
たまに、特別受益がないにもかかわらず、便宜的に相続分なきことの証明書を作成される方もいるようですが、このようないくつかの問題点もあります。
したがって、現実に特別受益があった場合にのみ、相続分のなきことの証明書を作成されることをおすすめします(というよりもそれが正しい使い方ですね)。
6.相続分なきことの証明書についてまとめ
相続分なきことの証明書について、次の4点にまとめておきます
- 相続分なきことの証明書とは、特別受益に該当することを証明する書類のこと
- 相続分なきことの証明書を添付した相続人は、遺産分割協議書に署名・捺印をする必要がなくなので、相続登記を簡便にすることができる
- 相続分なきことの証明書を使用する際の注意点は、①相続放棄とは関係ないこと、②贈与税との関係で問題となり得ること、などがある
- 便利な使い方もできる相続分なきことの証明書だが、現実に特別受益があった場合にのみ作成したほうがよい
ここでは、相続分なきことの証明書について見てきましたが、いかがだったでしょうか。
便利な使い方もできるこの書類ですが、注意点をしっかり押さえてから利用するようにしてくださいね。
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