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相続登記(不動産の名義変更)に権利証は必要?【司法書士が徹底解説】

街並みと道路

ご自身が購入した不動産であれば、権利証は重要書類として大切に保管されていることでしょう。しかし、亡くなったご両親やご親族(被相続人)名義の不動産となると話は別です。「実家のどこかにあるはずだけど、見たこともない」「探しても見つからない…」

権利証がないと、相続での名義変更はできないのでしょうか?もし紛失していたら、何か大変なことになるのでしょうか?

この記事では、そんな相続登記と権利証にまつわる疑問や不安を、専門家である司法書士が徹底的に解説します。

結論から申し上げると、相続登記に権利証は不要です。

この記事を最後までお読みいただければ、その理由が明確に分かり、安心して相続手続きを進められるようになります。さらに、2024年4月1日から始まった「相続登記の義務化」にも触れながら、権利証を紛失した場合の対処法や、権利証が本来どのような役割を持つ書類なのかまで、網羅的に理解を深めることができます。

1. 【結論】相続登記に権利証は必要ありません

まず、最も重要な結論からお伝えします。

相続を原因とする不動産の名義変更(相続登記)において、被相続人(亡くなった方)名義の権利証は原則として不要です。

「重要書類である権利証がなくて、本当に大丈夫?」と不安に思われるかもしれませんが、ご安心ください。法務局に登記を申請する際の必要書類一覧にも、相続登記の場合、権利証は含まれていません。

なぜ相続登記では権利証が不要なのか?

その理由は、登記手続きにおける権利証の役割にあります。

権利証は、「登記義務者」、つまりその登記申請によって権利を失ったり、何らかの義務を負ったりする人(例:不動産の売主)の本人確認と意思確認のために使われる書類です。ざっくり言えば、「この不動産を手放す(または担保に入れる)のは、所有者本人の間違いない意思ですね?」ということを確認するための、極めて重要な証拠の一つなのです。

しかし、相続の場合はどうでしょうか。相続は、売買や贈与のように「誰かに不動産を譲り渡す」という当事者の意思(法律行為)によって権利が移るのではありません。被相続人が亡くなったという事実によって、法律の規定に基づき、自動的に相続人に権利が移転します。

この場合、登記手続き上の「登記義務者」は被相続人となりますが、本人は既に亡くなっているため、意思の確認はできません。その代わりに、被相続人が亡くなった事実と、申請人が正当な相続人であることを「戸籍謄本一式」によって証明します。

これが、相続登記において権利証が不要とされる理由です。法務局は、戸籍謄本等で相続関係を厳格に確認することで、登記の真正を担保しているのです。

2. そもそも「権利証」とは?~2つの種類を理解しよう~

一般的に「権利証」と一括りに呼ばれていますが、実は年代によって2つの種類が存在します。ご自宅で探す際の参考にもなりますので、それぞれの特徴を理解しておきましょう。

① 登記済証(とうきずみしょう)|昔ながらの権利証

不動産登記法が改正される平成17年以前に発行されていたものが「登記済証」です。通称「登記済権利証」や、単に「権利証」と呼ばれることが最も多いタイプです。

これは、登記申請の際に提出した登記原因証明情報(売買契約書など)や登記申請書の副本に、法務局が「登記済」という赤いハンコ(受付年月日と受付番号が記載)を押して、登記名義人に返却したものです。

表紙に「登記済権利証」と書かれた分厚い和紙のファイルに綴じられていることが多く、いかにも重要書類といった風格があります。被相続人が長年所有していた不動産の場合、この登記済証が権利証にあたる可能性が高いでしょう。

② 登記識別情報(とうきしきべつじょうほう)|現在の権利証(パスワード)

平成17年の法改正以降、オンライン申請に対応するために導入されたのが「登記識別情報」です。これは、登記が完了した際に登記名義人に対して発行される、アラビア数字その他の符号の組合せからなる12桁のパスワードです。

A4の緑色の用紙で発行され、パスワード部分は目隠しシールで隠されています。このシールを一度剥がすと元に戻せないため、取り扱いには注意が必要です。

登記識別情報は、言うなれば「不動産の暗証番号」です。オンライン申請の際には、この12桁のパスワードを入力することで本人確認を行います。書面申請の場合でも、この登記識別情報を記載した書面を提出することで、従来の登記済証と同じ役割を果たします。

このように、形状や本質は異なりますが、不動産の所有者にとって重要な本人確認手段であるという役割は共通しています。この記事では、これら両方を総称して「権利証」と呼んで解説を進めます。

3. 権利証はどんな時に必要になるのか?

相続登記では不要な権利証ですが、では一体どのような手続きで必要になるのでしょうか。原則を理解しておくと、不動産取引の全体像が見えやすくなります。

権利証が必要になるのは、前述の通り「登記名義人が権利を失う、または不利益を被る登記」を申請する場合です。これを「登記義務者」として申請に関わるケースと呼びます。

権利証が【必要】な登記の具体例

  • 不動産を売却する(所有権移転登記)売主として、買主に所有権を渡すため。
  • 不動産を贈与する(所有権移転登記)贈与者として、受贈者に所有権を無償で渡すため。
  • 不動産を担保にお金を借りる(抵当権設定登記)所有者として、不動産に金融機関の抵当権を設定するため。
  • 離婚で財産分与する(所有権移転登記)財産を渡す側として、相手方に所有権を渡すため。

これらの手続きでは、申請人が本当に不動産の所有者本人であり、自らの意思で権利を手放す(または制限する)ことを確認するため、権利証の提出が求められます。

権利証が【不要】な登記の具体例

一方で、登記名義人が不利益を被らない、または登記によって利益を得る「登記権利者」として申請する場合は、権利証は不要です。

  • 不動産を相続する(所有権移転登記)被相続人から所有権を受け継ぐため。(今回のテーマ)
  • 不動産を購入する(所有権移転登記)買主として、売主から所有権を受け取るため。
  • 住宅ローンを完済する(抵当権抹消登記)担保を外してもらうため。※金融機関から預かっていた書類は必要です。
  • 住所や氏名が変わった(登記名義人表示変更登記)所有権そのものに変動はないため。

この対比からも、相続登記が権利証不要のカテゴリーに含まれることがお分かりいただけるかと思います。

4. 相続登記が完了すると、新しい権利証が発行されます

権利証が見つからないまま相続登記を申請し、無事に手続きが完了したとします。そうすると、法務局からいくつかの書類が返却されますが、その中に新しい権利証、すなわち「登記識別情報通知」が含まれています。

これは、不動産の名義が被相続人からあなた(相続人)に変わったことを証明するものです。

古い権利証はどうなる?

相続登記が完了した時点で、被相続人名義の古い権利証(登記済証または登記識別情報)は、その効力を完全に失います。法律上、ただの紙切れになる、と考えていただいて構いません。

もし後から古い権利証が見つかったとしても、それは記念として保管しておくか、ご自身で処分してしまって問題ありません。法務局が回収することはありません。

新しい権利証(登記識別情報)の保管方法

新たに発行された登記識別情報は、あなたが将来その不動産を売却したり、担保に入れたりする際に必要となる非常に重要な書類です。以下の点に注意して、厳重に保管してください。

  • 目隠しシールは剥がさない: 不必要にパスワードを見える状態にしないでください。
  • コピーや写真撮影はしない: パスワードが漏洩する原因になります。
  • 他の重要書類と一緒に保管する: 実印や印鑑証明書などとは別の場所に保管することが望ましいです。
  • 保管場所を家族に伝えておく: 万が一の際、次の相続で家族が困らないようにするためです。

5. 【相続以外】もし権利証を紛失してしまったらどうする?

ここまでの解説で、相続登記自体は権利証がなくても問題ないことが分かりました。しかし、この記事をお読みの方の中には、「自分が所有している不動産の権利証をなくしてしまった」という方もいらっしゃるかもしれません。

権利証は再発行ができません。では、紛失した場合はどうすればよいのでしょうか。ここからは、相続以外のケースで権利証を紛失した場合の対処法を解説します。

5-1. 紛失のリスクは?所有権はなくならない?

まず大前提として、権利証を紛失しても、あなたの不動産の所有権がなくなることはありません。権利証は所有権そのものではなく、あくまで登記申請時の本人確認書類の一つだからです。

紛失による最大のリスクは、第三者に悪用され、勝手に不動産の名義を変えられてしまう「なりすまし」の危険性です。

しかし、現実的にそのリスクは極めて低いと言えます。なぜなら、不動産の名義変更には、通常以下の3点セットが必要だからです。

  1. 権利証(登記識別情報または登記済証)
  2. 実印
  3. 印鑑証明書(発行後3ヶ月以内)

これに加えて、司法書士が面談等で厳格な本人確認(免許証などの提示)を行います。したがって、権利証を拾われただけでは、直ちに不動産を奪われるという事態にはなりにくいのです。

とはいえ、リスクがゼロではない以上、不安は残ります。そのための公的な制度も用意されています。

5-2. 紛失した場合の2つの予防制度

権利証を紛失したり、盗難に遭ったりして、不正な登記をされる恐れがある場合、以下の制度を利用することができます。

① 不正登記防止申出

これは、申し出から3ヶ月以内に、対象不動産について何らかの登記申請があった場合に、法務局から申出人に通知がされる制度です。不正な申請を直接防ぐ効力はありませんが、いち早く察知することができます。

盗難に遭ったなど、不正利用の危険性が具体的に迫っている場合に有効な手段です。ただし、有効期間が3ヶ月と短いため、恒久的な対策にはなりません。

② 登記識別情報の失効申出

これは、紛失した権利証が「登記識別情報」である場合のみ利用できる制度です。法務局に申し出ることで、その登記識別情報(12桁のパスワード)の効力を完全に失わせることができます。

キャッシュカードのパスワードを無効にするイメージに近いでしょう。一度失効させると二度と有効に戻すことはできませんが、悪用される心配はなくなります。

5-3. 権利証がない状態で不動産を売却・贈与する方法

では、権利証がない状態で、いざ不動産を売却したり贈与したりする必要が出てきた場合はどうすればよいのでしょうか。権利証は再発行されないため、それに代わる方法が必要になります。主な方法は以下の2つです。

① 司法書士による「本人確認情報」の作成(最も一般的な方法)

現在、実務で最も多く利用されているのがこの方法です。

本人確認情報とは、司法書士が依頼者と面談し、運転免許証などの身分証明書の確認や、不動産の取得経緯などを聴き取った上で、「この方は間違いなく登記名義人本人です」ということを証明し、その責任において作成する書類です。

この本人確認情報を権利証の代わりに登記申請書に添付することで、法務局は登記の真正を認め、手続きを進めることができます。

ただし、司法書士は大きな責任を負うことになるため、作成には専門的な知見と厳格な手続きが求められます。そのため、別途5万円~10万円程度、事案によってはそれ以上の費用がかかるのが一般的です。

② 事前通知制度

これは、権利証なしで登記申請が行われた際に、法務局から登記義務者(元の所有者)の住所地宛に通知書を発送する制度です。

通知を受け取った本人が、内容に間違いがない旨を記載して2週間以内に返送することで、本人の意思が確認されたものとして登記が実行されます。

費用はかかりませんが、郵送のやり取りで時間がかかる(2週間以上)ため、決済日が決まっている不動産売買など、スピードが求められる取引には不向きです。また、転居していて郵便が受け取れない場合などは利用できません。そのため、現在では司法書士による本人確認情報の作成が主流となっています。

6. 【重要】相続登記の義務化と権利証の問題

これまで見てきたように、相続登記に権利証は不要です。この事実を知っていただくことは、今、非常に重要になっています。なぜなら、2024年4月1日から相続登記が義務化されたからです。

相続登記義務化のポイント

  • 相続の開始を知った日(通常は被相続人が亡くなった日)から3年以内に相続登記を申請する義務があります。
  • 正当な理由なく義務を怠った場合、10万円以下の過料が科される可能性があります。
  • 過去の相続(法律の施行前に発生したもの)も対象となります。

この義務化により「権利証がないから」は手続きをしない理由になりません。3年以内の申請が必要です。

相続登記を放置することには、過料のリスク以外にも、

  • 不動産を売却したり、担保に入れたりできない
  • 次の相続が発生し、権利関係がネズミ算式に複雑化する
  • 空き家問題の原因となり、管理責任を問われる可能性がある

など、多くのデメリットがあります。権利証の有無にかかわらず、速やかに相続登記の手続きに着手することが、ご自身の権利と財産を守る上で不可欠です。

参考記事:【2024年義務化】相続登記の期限はいつまで?放置で過料も!5つのデメリットと対策を司法書士が徹底解説

7. まとめ:権利証が見つからなくても、まずはご相談を

最後に、この記事の要点をまとめます。

  1. 相続登記に権利証は不要:相続の事実を証明するのは戸籍謄本であり、権利証は必要ありません。見つからなくても安心して手続きを進められます。
  2. 権利証には2種類ある:「登記済証」と「登記識別情報」があり、年代によって異なります。
  3. 相続登記後は新しい権利証が発行される:相続人名義の新しい「登記識別情報」が発行されるので、大切に保管してください。
  4. 権利証の紛失リスクは限定的:紛失しても所有権はなくならず、悪用されるリスクも極めて低いですが、「不正登記防止申出」などの予防策もあります。
  5. 権利証なしで売却等も可能:司法書士が作成する「本人確認情報」があれば、権利証がなくても不動産の売却や贈与は可能です。
  6. 相続登記の義務化:「権利証がないから」は手続きをしない理由になりません。3年以内の申請が必要です。

被相続人の大切な財産を引き継ぐ相続手続き。権利証が見つからないという一点だけで、その第一歩をためらってしまうのは非常にもったいないことです。

もし、相続手続きの進め方や必要書類の集め方で分からないことがあれば、ぜひお近くの司法書士にご相談ください。専門家が、あなたの状況に合わせた最適な解決策をご提案します。権利証の問題はもちろん、複雑な戸籍の収集から遺産分割協議書の作成、法務局への申請まで、トータルでサポートすることが可能です。

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