相続手続きを進める際のポイントの一つに、生命保険金の取り扱いがあります。生命保険金は高額であることが多いため、相続人の中で受け取った人と受け取らなかった人とで不公平が生じてしまうことも珍しくないからです。
もし、生命保険金が相続財産に含まれるとすれば、遺産分割協議を経て各人に分配することも可能となります。しかし、そうでないのなら、生命保険金を請求する権利は各個人の権利ということになり、相続手続きとは別に考える必要があるのです。
ここでは、生命保険金と相続の関係を解説していきます。相続手続きを進める際の役に立つ内容となっていますので、ぜひ参考にしてください。
目次
1.相続される財産
相続される財産については次の法律に規定されています。
民法896条(相続の一般的効力)
相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。
この条文にあるように、相続される財産とは「被相続人の財産に属した一切の権利義務」ということになります。
「被相続人の財産に属した一切の権利義務」とは、預貯金や不動産などの金銭的価値のあるものに加えて、借地権、借家権、損害賠償請求権など、法律上の権利をも含みます。
具体例として次のようなものです。
❖不動産・現金・有価証券・預貯金・ゴルフ会員権・車・家財などの動産・貸付金売掛金・借地権・借家権・抵当権・損害賠償請求権 など
ではこの中に生命保険金が含まれるのでしょうか。
- 生命保険金が相続財産に含まれる→遺産分割協議で各相続人に分配される
- 生命保険金が相続財産に含まれない→各人固有の権利になり相続とは別に処理をする
ということになります。
2.生命保険金と受取人
生命保険金が相続財産に含まれるかどうかは、保険金受取人として誰が指定されているかにより結論が異なります。
2−1.契約者=被相続人 受取人=被相続人を指定
このケースの場合、被相続人は自分のために生命保険契約を締結したものと考えられます。したがって、保険金を請求する権利は被相続人の財産の一部となり、被相続人の相続財産の中に含まれることになります。
つまり、遺産分割協議で分配すべき財産ということですね。
たとえば、医療保険の入院保険などを被相続人の死後に相続人が請求する場合は、このケースに当てはまる可能性があります。
なお、死亡保険においてこのケースは通常考えられません。
2−2.契約者=被相続人 受取人=特定の人を指定
たとえば、夫が生命保険契約を締結し、保険金受取人として妻を指定した場合などです。
このケースの場合、被相続人は他人のために保険契約を締結したものと考えられます。したがって、保険金を請求する権利は保険金受取人固有の財産となり、相続財産には含まれないことになります。
つまり、相続の問題とは別に各個人で生命保険金を請求するということですね。
2−3.契約者=被相続人 受取人=相続人を指定
このケースの考え方も2と同じです。保険金を請求する権利は、受取人として指定した各相続人固有の財産となり、相続財産に含まれないことになります。
相続の問題とは別に各個人で生命保険金を請求しましょう。
3.生命保険金と特別受益
このように、生命保険金が相続財産となるケースはかなり限定されています。しかしこれでは、高額な生命保険金を受け取った人とそうでない人とで不公平が生じる結果になりかねません。
そこで、この相続人間の不公平を解消するために、生命保険金は特別受益として持ち戻しの対象となるのかが問題となることがあります。
特別受益とは、特定の相続人が被相続人から特別の財産の贈与等を受けていた場合の利益のこと。この特別受益の利益分を、遺産分割の際の計算に入れて相続人間の公平を図る制度です。
この点について、裁判例は「生命保険金は原則として特別受益の対象とはならない」としながらも、「相続人間に生ずる不公平が、到底見過ごすことのできないほどの特段の事情があれば、生命保険金は特別受益として持ち戻しの対象となる」と判示しました。
そして、上記「特段の事情」とは「相続財産の総額に対する生命保険金の割合や、被相続人と相続人の関係、各相続人の生活実態などを考慮して総合的に判断すべき」としています。
つまり、生命保険金が高額で相続人間に大きな不公平が生じてしまうような場合には、生命保険金を特別受益として計算し、公平に遺産分割をしていきましょう。ということですね。
4.生命保険と相続財産まとめ
生命保険金と相続財産の関係について、次の5点にまとめておきます。
- 生命保険金が相続財産に含まれるかどうかは、保険金受取人として誰が指定されているかにより結論が異なる
- ①契約者=被相続人、受取人=被相続人を指定した場合は、保険金を請求する権利は被相続人の相続財産の中に含まれる
- ②契約者=被相続人、受取人=特定の人を指定した場合は、保険金を請求する権利は保険金受取人固有の財産となり、相続財産には含まれないことになる
- ③契約者=被相続人、受取人=相続人を指定した場合は、受取人として指定した各相続人固有の財産となり、相続財産に含まれないことになる
- 生命保険金が高額で相続人間に大きな不公平が生じてしまうよな場合には、生命保険金を特別受益として計算し、遺産分割協議していくことになる
ここでは、生命保険金と相続財産の関係についてみてきましたが、いかがだったでしょうか。
被相続人が生命保険に加入していた場合には、まずはどのような契約か確認してから相続手続きを進めるようにしていきましょう。
ここでの記事が、あなたの参考になれば幸いです。
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